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評者◆秋竜山
「ありがとさん」を三回、の巻
No.3271 ・ 2016年09月17日




■人間は、なぜ怒るのか。いや、怒るのは人間だけではない。生きものすべてが怒るという感情をもっているだろう。枡野俊明『怒らない禅の作法』(河出文庫、本体五二〇円)では、怒りたくなる感情を、禅の智慧で、怒らないようにする方法を教えようという、幸せに生きるには怒ってはいかんという手引書でもある。
 〈中国の唐の時代に、こんな故事が残っています。禅僧の百丈懐海が、ある時、師匠である馬祖道一老師から「喝!」と大声で一喝され、三日間耳が聞こえなくなった。しかし、その後、懐海はそれまでの迷いから抜けて、悟りを開いたというのです。三日間は大げさかもしれませんが、師匠の一喝には、全身をビリビリと突き抜けるような衝撃があったのでしょう。(略)〉(本書より)
 とにかく、フツーの一喝ではないだろう。三日間耳が聞こえなくなったというから、まず想像がつかない。
 〈自分に大声で「喝」を入れてみてください。腹の底から響くような大きな声には、瞬時にして一切合切を吹き飛ばしてしまうような強い力があります。〉(本書より)
 自分で自分に大声で「喝」を入れて眼をまわすということもあるまいが、世の中にはすぐに怒る人がいるものだ。怒っていないと気分が悪いとでもいうのだろうか。
 〈いつも機嫌のいい人と、ちょっとしたことでイラッとしてしまう人。その違いはどこにあるのでしょう。それは、普段その人がどんな心の状態にあるかの違いです。〉(本書より)
 すぐカッとなる人というのは確かにいる。人ごみの中でもその人だけが怒っている。それも、どーってことのないことで怒っているのである。
 〈いったん生まれた怒りを収めるための秘策があります。実に簡単なことです。不愉快なこと、腹の立つことがあった時、何かを言う前にまず一呼吸置くのです。浅い呼吸では効果がありません。おなかをゆっくり動かしながら、大きく丹田で深呼吸します。この「間」が重要です。「それができれば、苦労はない」と思うかもしれません。しかし、私の尊敬する大本山總持寺の元貫首をされた板橋興宗禅師は、怒りを収めるために実際この方法を使っていました。(略)頭に来ることがあったらおなかで呼吸をしながら、「ありがとさん、ありがとさん、ありがとさん」と三回くり返しているのだと教えてくれたのです。〉(本書より)
 とはいうものの、昔、電車の中で女性のかかとのとがったハイヒールで足をふんづけられたことがあった。その時、新調したばかりの私のクツがへこんでしまったほどであった。私の前に立っていたその女性は自分がふんづけたことを知らなかった。私はあまりの痛さに次の駅で降りてホームでしゃがみ込んでこらえていた。怒るというよりも痛さのほうが強くて、冷汗が出てくるやら。このような時、どーしたらいいんだろうか。ふんづけた女性はいません。私はしゃがみ込んでウンウンうなっていた。結局は私は痛い思いをしただけのことであったのだろうか。よしんば、その女性に文句をいったとしても始まらないことのような気もするし。ヒトは、なぜ怒るのか以前の、ヒトはなぜ足をふまれるかを考えるべきだろうか。アレ以来私は女性のハイヒールが恐ろしくて逃げ出すようになってしまったのである。







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