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評者◆小嵐九八郎
妖しく、切なく、悲しい――『森岡貞香歌集』(本体二〇〇〇円・砂子屋書房)
No.3271 ・ 2016年09月17日




■終戦記念日を挟んでのお盆の前後、フツウの新聞はオリンピックの日本万歳記事ばかりで愛する高校野球のそれは後退。なのに、先の参議院選挙で大分県警が野党の選挙応援事務所を克明に監視カメラで撮影し続けたとかのとんでもなく暗いが既に当たり前の件とか、敗戦、とりわけ広島・長崎のこととかの記事は淡かった。記憶の掘り起こしは大切そのものなのに。
 こういう時に、五七五七七の黄金律の抒情に耽るのは、どういうもんか、と、自らを嘆き、嗤いながら、演歌・ジャズ・ポップスを含む詩歌が思想やイデオロギーをあっけらかんと越えてしまう凄みと怖さを思う。
 それで、積んであった歌集の中から死んで七年あまりの歌人の『森岡貞香歌集』(現代歌人文庫、砂子屋書房、本体2000円)を読んだ。
 ワカランちゃんの俺から見ると、敗戦以後七十一年の短歌史は、初めの桑原武夫の真っ当なる『第二芸術論』による打撃、二つ目に、短歌の主語の一人称の廃棄と譬喩の酷使ほどの依拠による挑戦をした塚本邦雄と、土着と虚構の自己を何ともいえないリズムに託した寺山修司の時代、そして、三つ目に喋り語によって日常感覚を歌に任せた俵万智からその完成に至らせたと唸る穂村弘へときて、さあ、次は? と映る。
 こういう中で、森岡貞香の歌は、三つの、それなりに厳しく揉まれた変革の歌の歴史をほぼ態を変えずに貫き通したと思える。
《うしろより母を緊めつつあまゆる汝は執拗にしてわが髮亂るる》
 一九五三年の処女歌集の冒頭である。なお、夫は職業軍人で、敗戦の年に帰還、翌年に死。つまり「汝」は、その間に生まれた男子だ。妖しく、切なく、悲しい。
《しろじろと骸にたかれるうじを見し眼 戀ふる泪はたはむれのごと》
 ご、ごーん、ですな。その上で、桑原武夫が批判した枠にある「余技的、趣味的」なゲージツに俺も嵌まっていて、森岡貞香の歌を広げていくのは厳しい。でも、でも、だろう。







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