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評者◆添田馨
暗黒の“安倍時代”を生きる⑥――象徴としての天皇が語ったことの意味
No.3271 ・ 2016年09月17日




■8月8日午後3時より、ビデオメッセージのかたちで今上天皇が国民に向け語りかけたことの意味は、戦後以後を生きるこの国にとって、とてつもなく大きくまた重いものだった。そう私が感じた、その理由を述べたい。
 結論から言おう。先般の天皇の「お言葉」は、端的に、安倍政権とその思想的取巻きである日本会議に向けた、天皇ご自身による静かな、しかし絶対的な覚悟を秘めた悲憤の表明である。
 今上天皇のこれまでの言動や生い立ちを鑑みるに、安倍政権が進める憲法改正に向けた一連の策謀は、天皇ご自身にとって決して受け入れられるような性格のものではない、と私は常々感じていた。だから、改憲に向かうこの流れに抗して、万が一にも天皇ご自身が身を挺して立ち上がることが、ひょっとしてあり得るのではないか、という空想さえ抱いていた。今回のビデオメッセージによって、私のこうした空想ははたして現実のものになったと思っている。
 と同時に、今回ほど、天皇が自らのあり方を“象徴存在”として、私たちの意識に鮮明に訴えかけた出来事もなかっただろう。迂闊にも私たちの多くは、今上天皇が徹底した“象徴存在”としてご自身を厳しく律して生きてこられた意味を、これまで十分に理解していなかったのだ。
 ひとりの人間でありながら、国の象徴でもあり続けること。天皇以外の誰がその想像を絶するような困難を、自分自身の運命として受け容れられたろう。近代以降の天皇のなかでも、純粋に象徴として生きてこられたのは、今上天皇ただひとりなのである。従ってその言葉も、現実界にではなく象徴界にその根拠を有するものだと、私にはごく自然に信じられるのである。
 いま私たちに訪れているのは、これまで沈黙していたこの国の象徴界が、今上天皇の身体を憑代に、初めて人の言葉で語りだすという前代未聞の稀有な事態なのだ。そして、この言葉を重く受け止めねばならぬのは総理大臣ではなく、私たち国民一人一人なのである。







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