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評者◆秋竜山
「あとがき」は最初に読め!!、の巻
No.3270 ・ 2016年09月10日




■島田裕巳『もう親を捨てるしかない――介護・葬式・遺産は、要らない』(幻冬舎新書、本体七八〇円)では〈あとがき〉に、長谷川伸のことが書かれてある。〈劇作家、長谷川伸の代表作の一つが、「瞼の母」である。〉これを出されたら、もうほっとけない本となってしまう。〈この作品がはじめて発表されたのは、1930年、昭和5年のことである。〉なぜ、長谷川伸が出てくるのか。そして、「瞼の母」が。ずるい!! 長谷川伸を出す理由がわかってくる。番場の忠太郎を出すなんて、ずるい!!
 〈一度、子どもを捨てたとしたら、もうそれで親子の縁は切れる。その子どもが自分の前にあらわれ、情にすがってきても、決してそれには乗らない。そこには、今の私たちにはなかなかできない、断固たる決断と、情を呑み込んだ諦念がある。〉(本書より)
 「瞼の母」について、というような文章をいろいろな人のものを読んだが不思議なのは、誰が書いても、「名文」となってしまうのである。名文とは何か。「瞼の母」について、の名文とは「泣かせる」ということだ。書いている人が文章で酔い知れている。そして、日本人だなァ!! と、思わせる。
 〈本書の企画が持ち上がってから、実は執筆にはかなり苦労した。テーマは、親を捨てるということに絞られていたのだが、それをどのように表現していいのか、私のなかに迷いがあり、なかなかすっきりとした形で原稿がまとまってくれなかった。〉(本書より)
 そうだったんだろうなァ!!なんて、文章にあいづちをうちたくなってくる。そして、「それで……」と、なり、
 〈そんなおり、「瞼の母」のことや、他の長谷川伸の作品のことに思い当たった。〉(本書より)
 よくぞ、思い当たってくれました。それから、どーなったんですか? と、必然的にそーなるだろう。そして? となる。
 〈長谷川の作品に出てくるのは、世の中から外れた流れ者で、任侠の世界に生きるしかなくなった者たちである。長谷川以外にも、日本の文学や演劇、さらには映画は、そうした人間たちのことをくり返し描いてきた。〉(本書より)
 私は特に映画であった。番場の忠太郎を誰が演じてもいいだろう。役者だったら一度は演じてみたいだろう。私が「瞼の母」の作品に最初に出合ったのは、少年の頃であった。小学生だったか中学生だったか忘れてしまったが、風邪で学校を休み家で蒲団の中にもぐっていた。ラジオ放送の時代であった。放送劇であったから、蒲団の中まで音がしのびこんできた。私は蒲団の中で身をこごめて丸くなっていた。まるで身をひそめているような雰囲気だった。放送劇であるからテレビのように映像を見ているようなことはなく、全部頭の中に、その場面をつくりあげていく。哀し過ぎる物語だと思った。
 〈それは、社会のなかでまっとうに生きている「かたぎ」の人間の生き方とは対極にあるのである。〉(本書より)
 瞼の母には芝居の中で、名セリフがある。「忠太郎やーい、忠太郎やーい」と、やくざ者の息子を追うドラマの最後のへんであった。私は蒲団の中であまりのかなしさに、泣いていた。子供に大人の世界がわかったのだろう。本書を読むきっかけは、〈あとがき〉によってであった。〈あとがき〉は最初に読め!! と、いういい例であった。







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