書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆秋竜山
お札に植え付けたい漱石の鼻毛、の巻
No.3268 ・ 2016年08月27日




■河合敦『日本人は世界をいかにみてきたか』(KKベストセラーズ、本体八二四円)では、夏目漱石のこと。漱石はお金になっている顔である。日本人だったら、みんな見ているだろう。「なかなか、見る機会がなくて、見ていません」なんて人もいたりする。「そういえば、いくらのお札だったんだろう」。お札の肖像画って、そんなものである。岡本一平が描いた漫画の夏目漱石が写真よりも夏目漱石らしく感じる。イギリス風の格好をするより、丹前にくるまっているほうが、いかにも漱石らしい。ステテコ姿も漱石によく似合うように思えてくる。明治時代の日本のホームドラマをテレビで見ているような雰囲気がただよってくる。
 〈「我が輩は猫である」、「坊ちゃん」、「虞美人草」、「三四郎」、「心」、「明暗」などを学生時代に課題図書として出され、感想文に四苦八苦した思い出を持つ人も少なくないであろう。まさに漱石は、近代日本の代表的文豪といえるだろう。〉(本書より)
 漱石の肖像画がお札にもなっていて有名だが、いくらのお札であるかよくわからないのも、高校の国語教科書にも文章が載っていて国民的に有名であるにせよ、一度も読んだことのない小説であるにせよ、肖像画が何円札に印刷されているのかよく思い出せないのと同じように、小説の題名さえ知っていれば、もう充分であって、読む必要もなく、読んだのと同じようなものである、と思うのだが。それが夏目漱石のすごさといえるだろう。
 〈東大では、俳人であり歌人の正岡子規と仲良くなり、一緒に句や詩をつくるようになった。ときおり二人で散歩することもあったが、子規が驚いたことは漱石が米が稲から獲れることを知らなかったことだった。頭のよい漱石だったが、その知識はかなり偏っていたようだ。〉(本書より)
 「アハハ……、実に漱石らしくてユカイユカイ」と、いいたいところだ。漱石だからゆるされることであり、漱石をいっそう親しみのもてる人物にさせてくれる。
 〈あるとき生徒が「先生が訳した語が辞書に載っていません」と言ったのに対し漱石は、「それは辞書が間違っているのだ。辞書のほうを訂正しなさい」と言い放ったという話が残っている。〉(本書より)
 まるで「坊っちゃん」を地でいっている英語教師である、と誰もが同じことをいいそうである。
 〈明治四十年(一九〇五)に教職をやめ、朝日新聞の専属作家となった。こののちも次々と作品を生み出していったが、ストレスのため神経衰弱、うつ病、胃潰瘍などさまざまな病気を患い、明治四十二年(一九〇九)には療養先の伊豆修善寺で胃潰瘍のために一時危篤に陥るほどだった。〉(本書より)
 夏目漱石を、これらの病気なしでは語れないだろう。
 〈幸い命をとりとめたが、それからも文筆で行き詰まると、鼻毛を抜いて原稿用紙に植え付けたり(略)〉(本書より)
 鼻毛を「アイタタ」なんていいながら抜く姿が想像できる。お札に植え付けたいものである。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約