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評者◆秋竜山
武蔵はまだか、の巻
No.3267 ・ 2016年08月13日




■宮本武蔵という名前は、子供の頃〈まんが宮本武蔵〉でおぼえた。昭和二十年代後半は、子供まんが(児童まんがといっていた)の黄金時代といってよかろう。昭和二十年代前半は絵物語の大ブームであった。絵物語とは絵と文章の組み合わせで物語がつくられている。その後から続くのが、〈まんが〉であった。コマ割りしたまんがは人物が喋ったから絵物語の紙芝居風と違って、まるで映画を見ているようであったから、子供たちは夢中になって次々と発刊される〈まんが雑誌〉に、発売日を待てないほどであった。その中に宮本武蔵があった。宮本武蔵のまんがである。まだ劇画というものが世に出ていなかった。まんがは劇画と違って、笑いとかユーモアが主体となっていたから、そんな宮本武蔵であった。私の宮本武蔵像は、まんが宮本武蔵といっていいだろう。
 渡邊大門『宮本武蔵 謎多き生涯を解く』(平凡社新書、本体七六〇円)では〈本書を一読いただければ、きっとこれまでの武蔵像がひっくり返されるはずであり(略)〉と〈はじめに〉で述べている。宮本武蔵といえば吉川英治ということになるだろう。空想の人物を吉川英治がつくり上げたようなものだ。吉川英治が小説化する前は実在の人物も空想の人物のようなものだ。宮本武蔵の話になった時、誰もが吉川英治の宮本武蔵の話をしていることになる。まず、吉川英治の宮本武蔵を知らなかったら宮本武蔵の話はできないといっていいだろう。
 〈船に乗った武蔵は、巌流島を目指す船の中で、黙々と長い木刀を削っていた。その材料は、意外なことに船の櫓である。周知のとおり、小次郎は「物干し竿」と称される三尺余(約九十センチメートル)の長い木刀を用いていた。小次郎の必殺技「燕返し」は、福井市浄教寺の一乗滝で編み出されたといわれているが、史実であるか定かではない。武蔵は「燕返し」に対抗するため、長い木刀を用いたのだろう。〉(本書より)
 映画などでおなじみの場面である。巌流島を目指す船は小さな櫓船であり、「どこから持ってきたんだろう」なんて、漁村育ちの子供であったので映画の中で一番印象深い場面であった。櫓をこぐ爺さんも本物である証拠に本当に櫓をこいでいた。子供ってそんなところに感動するものだ。武蔵は船の上で櫓をけずって木刀にしている。「なんだ、まるで漁師のケンカではないか」なんて、子供心に思ったものである。
 〈計算ずくで遅刻をして相手を怒らせるなど、武蔵の戦いに臨む姿勢は卑怯であると批判的な見解もあろう。しかし、幾多の修羅場を潜り抜けた武蔵は、勝つことに恐るべき執念を燃やしていた。勝利が最大の目的であるならば、心理戦もまた剣術の一部をなしていたといえよう。〉(本書より)
 私の、まんが武蔵で印象に残っている場面は、この時武蔵ははげしい下痢で便所を出たり入ったりしていたのであった。そして、ついに大遅刻となってしまった。待たされてイライラしている小次郎に、またもや便意をもよおしてしゃがみ込む武蔵。こんな武蔵を最初に見てしまうと、それが武蔵の原点になり、打ち消すことがついにできなくなってしまったのであった。







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