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評者◆小嵐九八郎
地方文化の保存と未来を託して――『「本の寺子屋」が地方を創る――塩尻市立図書館の挑戦』(本体一二〇〇円、東洋出版)
No.3266 ・ 2016年08月06日




■老いたので少し長い距離は座席に腰をかけたいと電車に乗り込むと、スマホを手に中年の女の人がずっと先に座ってしまったり、既に“優先席”はスマホに熱中する若者に占められていて、気がつくと車輌の九割はスマホだらけの近頃だ。どうも書物を読まない文化の繁栄で、くねくねと誤魔化し続ける首相が支持されているのではと考えてしまう。もっと直接には紙媒体を売っている本屋に打撃を与えていて、毎日毎日、書店は町の中から消えている。
 無料で本を読ませてくれて貸してくれる図書館には頑張ってほしいところだが、民間に依託して本来の文化の蓄積や継承より経費削減へと傾いているし、個人的にはどうもあの「静粛」の雰囲気と、「静粛」のでかい注意書きは刑務所の廊下を思い出させて、娯楽作家兼自称歌人の前科者は縮こまり息苦しくなる。
 もっとも、一年半前ばかり、あるちゃんとした俳人と好い加減な当方が「信州しおじり 本の寺子屋」に呼ばれて対談した場所、塩尻市立図書館は、そういう堅苦しさと縁遠かった。駅から七、八分の町の中心地にあって、市民交流センターの要として図書館があり、何より人の出入りが多く、小学生中学生ががやがややっていたり、高校生や老人が雑居して本、電子辞書、パソコン、飲みかけのペットボトルも共存して、読書や語りや勉強や遊びに飽きたら気楽に入れるコーヒー・パーラーもある。これに赤提灯や小料理屋もあったら天国とすら思った。
 つまり、この図書館は書物の蘇生をかけての、地方の文化の必死なる保存と未来を託して、たぶん、決め手にも賭けにも似た願いがある。むろん、一回きりの講演でなく持続的な寺子屋の開催も連動している。ま、『文藝』の元編集長の長田洋一氏がぎりり噛んでいて、色川大吉氏や柳田邦男氏、島田雅彦さんなどを招いているのだが。
 もっと詳しくは『「本の寺子屋」が地方を創る――塩尻市立図書館の挑戦』(信州しおじり 本の寺子屋研究会著、東洋出版、1200円)を読んだら解るはず。







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