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評者◆秋竜山
一円でも売れない絵画、の巻
No.3264 ・ 2016年07月23日




■画家にとって、自分が描く絵がどんな絵であるかが大問題となるだろう。まず描いた絵がお金にならなければならない。「いや、描くことがたのしいから、お金になんかならなくてもいい!!」と、いう画家が本当に存在するだろうか。いたとする。お金にならなくて、どーやって生活できるのか。画家といっても人間である。食べていかなくてはいけない。描いた絵を売ってである。ところが、売れる絵と、売れない絵がある。売れる絵はちっとも問題がない。売れない絵が大問題である。昔、画廊のオーナーにいわれたものだ。「秋さん、たとえ一円でも絵の買い手があったら売りなさい」。私はビックリして「エッ!! たったの一円ですか」「そーですよ。絵に一円の金を出すということは大変なことです」。一円といえば道ばたに落っこちている一円玉に誰も見むきもしないだろう。それどころか踏んづけていってしまうだろう。売れない絵というものは一円でも相手にしてくれないのである。日本博学倶楽部『「世界の名画」謎解きガイド「迷宮篇」』(PHP文庫、本体七〇〇円)に、〈「叫び」(エドヴァルド・ムンク)〉が〈怖い名画〉という作品コーナーに選ばれている。この絵は「世界の名画」として有名である。知らない人はいないだろう。これも絵の内に入るのだろうか。なんていうと笑われてしまうだろう。有名ということはそーいうものである。
 〈歪んだ空とフィヨルド、まっすぐに伸びる橋、中央に両耳を手で押さえ、両目と口を大きく開け苦悶の表情をした人が描かれている。骸骨のような顔の性別も年齢もわからない人物は、ムンク本人であると考えられている。〉(本書より)
 この人物を描く際、ムンクは何回か手を加えた。腕を長く伸ばしたり、不要な部分を削ったりした結果、骸骨のような顔になったのだ。と、本書に書かれてあるが、始めっからこのような絵を描こうとは思っていなかっただろう。完全に失敗作である。いくらなんでも、こんなラッキョウのような気持悪い絵を描く気はなかった。ところが、こんな絵になってしまった。破いても不思議はなかった。ところが、昔から失敗は成功のもとという。この〈叫び〉は、そんな絵である。このような絵が、もしゴミ捨て場に落ちていたとして、手に取る人がいるだろうか。一円でも売れる絵ではないだろう。誰がいい始めたかしらないが、〈実存的な不安の顔〉という哲学的な表情であるということになってしまった。そして、世界の名画ということになってしまった。
 〈彼曰く、「叫び」のインスピレーションは、ムンクが友人とオスロ・フィヨルド湾(フランスのニースとも)の辺りを歩いていた時に得たものだという。日が沈んで空が血のように真っ赤に染まると、ムンクは突然不安に襲われた。そして、「自然を貫く終わることのない大きな叫び」を聞いたという。〉(本書より)
 つまり、このラッキョウ男が叫んでいるのではなく、自然を貫く「叫び」に耳をふさいだのだという。私はどーみてもこの男が叫んでいるようにみえるのだ。だからこの絵が世界的絵画となったのだ!! と、思えてくる。そーでないといわれたら私の立場はどーなる。どーなってもいいけど、ね。







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