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評者◆内堀弘
土曜の夜、古書店の読書会――京都梁山泊で百回を越える
No.3262 ・ 2016年07月09日




■某月某日。六十年代後半の、いわゆる全共闘時代の資料に人気がある。なかでも『10.21とは何か』(昭44)という写真集(というより冊子のような報告集)が、いまネットでみると10万円ほどの古書価が付いている。驚いたのは『関学闘争の記録』(昭44)で、関西学院大闘争の渦中で学生が作った自費出版の写真集だろうが、これが27万。こういう写真集を抵抗芸術の一つとして海外のバイヤーが注目していると聞いたことがある。高騰はその反映だろうか。
 京都の梁山泊から古書目録『書砦』45号が届いた。「社会人文系絶版書」の専門で知られる古書店だ。七十年代に団塊の世代がはじめたニューウエーブの一つだが、それでももう四十年の歳月が過ぎている。
 店主の島元健作さんは、それこそかつては「抵抗」の渦中にあった人だったが、素朴な人柄で、コツコツと古書店を作り続けた。発行する在庫古書目録はどんどん部厚いものになり、この国の近代はここで俯瞰出来るようだった。だが、全集、叢書、研究書というかつて古書店の屋台骨であったものが人気をなくしていく。インターネットの普及は紙媒体での古書目録も追いやっていった。
 古書の人気は中心ではなく周縁に拡がっていく。たとえば連合赤軍事件の部厚い資料集よりも、「この顔にピンと来たら110番」という一枚の指名手配のポスターに驚くような値がつく。その時代のリアルに向かっている。専門店ピンチである。
 しかし、追いつめられると力を発揮してしまうのが団塊の人たちで、梁山泊もその名にふさわしかった。店の階上で主と客との読書会をはじめた。それがもう百回を越えた。私も一度参加したことがある。毎月第四土曜の夜、学生から定年世代まで、十人ほどがテーブルを囲む。堅い雰囲気はない。古本屋に集まって本の話をするというのがいかにも楽しそうだ。
 いま、若い古本屋はインターネットよりも、ブックイベントや場としての店を大切にしている。梁山泊はその精神でも先駆であったようだ。古本屋の基本は旺盛な好奇心だ。店主の島元さん、これには欠けていない。一昨年、読書会百回を記念した記録集を出した。個性的な小さな本屋も生まれ、月末の土曜には古本屋でこんな集まりが続く。京都にはかなわない。







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