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評者◆高坂浩一(堀江良文堂書店松戸店)
たまらなく懐かしいエピソードが満載
ロッキング・オン天国
増井修
No.3261 ・ 2016年07月02日
■1981年のMTVの開局をきっかけにミュージックビデオ(以下MV)が影響力を持ち始めた頃、ベストヒットUSAの放送が始まり、続くようにテレビ神奈川で全米トップ40やミュージックトマト、SONY MUSIC TVといった洋楽のMVを流す番組が続々と始まり、日本でも徐々に洋楽が一般層に広がりはじめた。ところが90年代の足音が聞こえる頃に、次々と洋楽番組が終わってしまう。ここで洋楽から離れた人も多かったと思うが、私のように洋楽にハマってしまった人間は洋楽誌に情報を求めるようになる。今回ご紹介する『ロッキング・オン天国』は、洋楽誌『rockin’on』の2代目編集長増井修氏の入社の経緯からロッキング・オン社を退社するまでが書かれた作品である。
増井氏といえば、先日復活後のシングル2枚をリリースしたもののレーベルから「アルバムのリリース予定は当分無い」と悲しいアナウンスがあったストーン・ローゼズにいち早く注目したことで有名で、彼らとの出会いから解散までの取材の裏話や今だから話せるエピソードを中心に、ブラーとオアシスのシングル対決でのブラー陣営の強かさ、マニック・ストリート・プリーチャーズへの辛口ながら愛ある物言い、スウェードの分裂やポール・ウェラーの意外な一面など、当時の『rockin’on』読者にはたまらなく懐かしくなるエピソードが沢山語られている。 さらに、本書には音楽評論誌としてスタートした『rockin’on』が音楽情報誌に変化していく過程も書かれている。この方向に進めたのは増井氏で、本文から引くと「批評を頑張ってたくさん書くよりミュージシャンのインタビューをちゃんと自前で取りましょう、写真もしっかり撮影しましょう、いい取材をとれる環境を整えましょう、細かい読者ページもきちんと作りましょう、もっと読者サービスもやりましょう、それから広告は貴重な情報だし賑やかしだから必要ですって、そういう方向性を持ち、結果として『ロッキング・オン』は必然的に「音楽雑誌として」充実していくことになったわけだ」と書いている。この音楽情報誌への転換により、80年代に洋楽番組をきっかけに聴き始めたライトなファン層も取り込むことができたのではないかと思われる。 さらに、さらに、発行部数や広告収入についても説明してあり、音楽評論誌だった頃は約3万部だった発行部数を、増井氏が編集長になり音楽情報誌にシフトチェンジしてからは10万部を超える部数にまで伸ばしている。しかも返品率20%以下というのだから驚異的である!! さらに広告収入も平均して約2千万円あったというのだから、90年代のロッキング・オン社はどれだけ儲かっていたんだ!! と驚くばかりである。 それにしても20年近く経っているとはいえ、こういう内部資料をここまで明かしてよいのだろうか? 7年やった『rockin’on』の編集長を離れ、自身が立ち上げた新雑誌『BUZZ』に関わることなく17年在籍したロッキング・オン社を増井氏は離れることになる。その経緯は残念ながら書かれていないのだが、彼が離れてから『rockin’on』の販売数が落ちていく。出版不況が始まったタイミングもあったので、彼が残ったとしても販売部数は落ちていたかも知れない。だとしても現状よりよかったのではないかと本書を読むと思ってしまう。増井氏が『rockin’on』あるいは『BUZZ』で出版不況にどう立ち向かうのか見てみたかったなぁ……。 |
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