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評者◆第22回 高山市図書館煥章館(岐阜県)・打保秀一館長
図書館のステータス向上をめざし自治体職員と協業を――指定管理者制度は企業誘致と同じ効果
No.3261 ・ 2016年07月02日




■出版社の団体・日本書籍出版協会と日本図書館協会はこのほど、馳浩文部科学大臣や高市早苗総務大臣に面会し、公共図書館などの資料費増額を要望した。出版界と図書館界双方の発展に向けた協働の一環としての行動だ。要望書には、公共図書館数が2000年度の2639館から14年度は3246館と607館増加しているにもかかわらず、資料購入費総額(予算ベース)は約346億円(00年度)から約285億円(14年度)と18%減少し、さらに一館当たりの平均額は1311万円から3割減の878万円と、図書館運営を取り巻く厳しい現状を報告している。なぜ、全国の公共図書館の資料費総額は減少しているのか。地方自治体は図書館にどれだけのモチベーションを持っているのだろうか。ここでは、「自治体と図書館」をテーマに、長く高山市(岐阜県)で行政職につき、教育委員会事務局長を務めた後、現在は図書館流通センターに在籍して高山市図書館煥章館の館長を務める打保秀一氏に話を聞いた。

■図書館でまちづくり 共感し館長に就任

 ――打保館長のこれまでの職歴は。
 「高山市が近隣9町村と合併した2005年2月1日から、教育委員会の事務局長に就任した。それ以前は企画管理部参事(部長級)、さらに前は財政課長、商工課長、財政係長などを務めており、長く企画・財政部門を歩んできた。09年に、高山市の慣行で早期退職することになった。その際に、図書館流通センター(TRC)の営業担当者から『図書館でまちづくりをしませんか』と声をかけられた。実は当時、すでに別の団体から声をかけられていたのだが、その言葉に惹かれた。色々と考えた末、TRCに就職。09年4月から高山市立図書館煥章館の館長に就任した」
 ――TRCと同館の関係は。
 「煥章館は04年、図書館を中心に近代文学館や高山市生涯学習ホールを併設した複合館として開館した。そのときに、高山市は図書館業務をTRCに委託した。06年には図書館の運営管理に指定管理者制度を導入し、TRCを指定管理者に選定した。高山市は他の自治体より指定管理者制度の導入自体が比較的早く、06年に当時の市長が図書館を含むほとんどの公共施設の運営に指定管理者制度を導入した」
 ――指定管理者制度を導入して10年になるが。
 「図書館は、自治体が市民の希望に沿い設置している。様々な図書館サービスを提供するなかで、最後は採算を考えずにやらなくてはいけないこともあるだろう。また、図書館法の趣旨などから考えると、本来であれば自治体の直営が望ましい施設だといえる。ただ、自治体の財政状況など諸事情により、色々な経営形態が考えられる。高山市図書館では、TRCが指定管理で運営したことで、1日12時間・年340日開館が実現し、司書など図書館スタッフの増員配置によりサービスが向上し、利用者も貸出数も3倍に跳ね上がった。利用者の満足度も7割台で、今もその水準をキープしている。
 図書館の管理運営を直営にするか、民間にするかという議論がまだ見てとれるが、最近の総務省の通達をみていると、国としては指定管理者制度は既成の事実、当たり前という認識のようだ。この制度はほぼ定着したと見ていいのではないか。直営図書館でも非正規雇用が多く、自治体によるが、5年を限度に雇用止するところも多いとの話である。そのため、図書館員のスキルを伝えたくても、伝える相手がいないそうで、自治体直営の図書館長のなかには、『今後のことを考えると、直営ではもうもたない。近年、正職の司書を採用してきていないため、後に続くものがいない』という話を聞くことがある」

■指定管理の導入 自治体で二極化

 ――自治体としては同制度を積極的に受け入れている。
 「かねて図書館運営に力を入れてきた自治体は、そもそも同制度を必要とせず、直営でやっているところもある。しかし、図書館サービスの向上を考えるにあたり、経費節減もでき、市民サービスも向上するということで、多くの自治体が同制度の導入に動いた。制度の開始から10年以上経ち、経費節減が主目的の場合と、同制度を正しく理解して活用しようとする自治体とで、二極分化しているように思われる。経費のことだけをみれば、直営のままで嘱託職員を置いた方が、経費節減になるケースもあるかもしれない。ただ、役所のサービスは、役所の諸制度・システムのなかで動かざるをえない。官のサービスに飽き足らなかった人が、指定管理者のサービスを良いと感じているのも事実だ」
 「同制度のメリットは、利用者の視点を大きく取り入れたこと。さらに、副次的な効果として、図書館業務を基本協定や仕様書にドキュメント化(見える化)したことで、これまでの業務を再評価することができた。また、雇用や地域経済、自治体財政の観点から、同制度の波及効果もある。TRCは高山市に営業所を設置し、本館と9分館で図書館スタッフとして、地元の市民48人を雇用している。結果、TRCでは、指定管理者制度導入後の9年間で岐阜県と高山市に、3000万円の県市税を納めている。地域の雇用を生み、収入を得たスタッフは地元で消費活動を行う――。これは企業誘致と同じ効果があるのではないか。さらに、TRCでは図書館スタッフの待遇改善のために、全社的に賃金水準の改善に着手している。そうなればさらに地元に金が落ち、その分の税収も上がる」
 ――近年、武雄市図書館(佐賀県)や多賀城市立図書館(宮城県)など自治体の首長の肝煎りで、図書館を中心にした複合施設を建設して、中心市街地の活性化に取り組む例が見られる。自治体において、図書館はどういう位置づけにあるのか。
 「図書館は、行政組織の中では、あくまで一つの施設に過ぎない。建物を建設するまでは脚光を浴びるが、それ以降の運営については、必ずしも関心が高いとはいえない自治体も多いのではないか。とくに首長にとっては、図書館は地方自治法に定められた公の施設の一つという捉え方をされるため、どう街の活性化に使えるか、という視点に比重を置いて図書館を見るのはやむをえないところだろう。武雄市などはその良い例だろうし、常に住民からの指示を考えていかなければならない首長としては、他自治体の成功事例をみると、関心を持たざるを得ないのではないか」

■「図書館を市民生活の一部に」

 ――自治体における図書館のポジションは高いのか、低いのか。
 「行政組織の本流は、本庁組織。所管する教育委員会が首長部局ではないという要素のほか、学校教育ではない社会教育といった仕事で生活に直接影響を及ぼす分野ではない分だけ、重要度・優先度は低く見られる傾向がある。福祉、医療、産業(農業・商工業・観光)、道路・橋梁・上下水道・ごみ処理施設などの都市基盤整備の部門は、市民生活を送るうえで、役に立っていると見られやすい。行政組織のパワーの流れの傍流に図書館があると考えられる。自治体における図書館のポジションを高めるには、もっと図書館が生活の一部になっていかなくてはならない。そうなれば、図書館は市民生活に不可欠なものになるだろう」
 ――行政組織でポジションが低いなか、どうすれば図書資料費は増額できるのか。
 「首長をはじめとする自治体の幹部に、図書館の重要性を理解してもらうことが大事で、図書館側もその力をもっと見せつけていく努力をすべきだろう。私が市の企画・財政部門にいた頃に、総合計画の策定に何度か関わった。後に司書資格の勉強をしていた際に、図書館司書のノウハウ・スキルがあれば、計画的に必要な資料を効率的に収集できたであろうと強く感じた。大学教授で元総務相の片山善博氏が鳥取県知事の時代に、県庁内に図書室を設置し、司書を置いたと聞いた。国が制度設計した政策に対して、他国の政策はどうなのか? 民間ではどうなのか? などの情報を得るのは図書館が有効だと分かっていたのだろう。自治体職員が様々な情報を広く集めて、政策づくりや判断をしていく際に、図書館を活用していくことが不可欠だと認識させていくことが重要である。図書館の存在意義に気づかせ、自治体の中での図書館のステータスを上げていくことが、地道だが、確実な方法だろう」
 ――一部の出版社が、図書館の貸出によって本の売行きを阻害していると指摘しているが。
 「まずは出版社に図書館法第17条の『図書館無料の原則』を理解してほしい。さらに、図書館があることで本が売れないということと、図書館が読書人の維持・拡大に寄与していることを考え合わせれば、中長期的に見て、図書館が本を買うというメリットの方が大きいのではないかと思う。複本については、図書館資料の購入や運営に責任をもって関わる者は、少なくとも適正な基準を設けるなど制限して購入している。複本を多く揃える図書館は少ないのではないか」

■広域サービスを克服 ”不可欠な図書館”へ

 ――高山市立図書館煥章館の館長に就任して、まずどのような取り組みを。
 「2178平方メートルという日本で最も広い市である高山市で、本館分館合わせて10館の図書館サービスをどのように展開していくかが課題だった。とくに分館の地域は、合併前にあったのは公民館図書室で、図書館はなかった。合併当初、図書館とはこういうサービスを提供する場であると伝えるために、『飛騨の民話を聞く集い』などの事業に取り組んだが、なかなかうまくいかなかったようだ。
 そこで、私が就任してから2010年の国民読書年を契機に抜本的に見直した。分館地域で、児童サービスのお話会を行う地域ボランティアの立ち上げや育成を支援したり、地域の課題解決を行う試みとして、図書館として『ふるさと歴史・文化地域講座』を3年連続で実施して本にまとめるなどの取り組みを行った。また、こうした分館事業を行うにあたり、市の支所、地域の社会教育団体、ボランティアとの連携強化など、地道に取り組んだ結果、地域との結びつきが強化され、分館地域での図書館利用が根付いてきた、と捉えている」
 ――現在の課題・問題と解決に向けて。
 「様々な経費節減には、限界もある。そこで、指定管理者の契約更新時に、これ以上の削減は不可能であると市と交渉し、指定管理料(図書購入費を含む)を適正水準にまでもっていくことができた。指定管理業務の受託期間の5年間に決まった額を確保できたことで、資料を計画的に購入することができる。これは、単年度予算で物事を考える“役所の仕組み”で動かなくてもよい指定管理者制度の利点といえる」
 「まだ、高山市図書館は生活に根差した、あるべき図書館の姿になっているとは思っていない。建物の環境整備だけでなく、資料や図書館サービスの中身に対して、一層の充実が必要と考えている。市民が生活をしていくのに不可欠な図書館にするための、アイデアを出し切れていないのが課題だと捉えている。市民の皆様や利用者の気持ちに寄り添うことで、図書館を通したまちづくりにつなげていきたい」







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