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評者◆かもめ通信
「訳者あとがき」を読み飛ばさないで!
翻訳者あとがき讃――翻訳文化の舞台裏
藤岡啓介編著
No.3260 ・ 2016年06月25日




■翻訳小説を手に取ると、大抵の場合巻末に“訳者あとがき”がついている。読者の中にはこの“あとがき”を読まずに本を閉じるという人もいるらしいが、私は必ず目を通す。作品に対して先入観をもつことやネタバレが怖いので原則あとがきから読むということはしないのだが、本文を読んでいる途中でどうにも行き詰まってしまい、途中で投げ出すかどうか迷ったときに、訳者の意見を聞いてみるということも無いわけではない。
 ひとくちに“訳者あとがき”と言っても、ストーリーをかいつまんで紹介するだけのものから、作家の略歴や作品の歴史的意義、訳者と作品の出会い等々、読み物としても面白いものや派生読書に繋がるものも多い。
 作品を読んだだけではつかみきれなかったあれこれに言及されて、目から鱗が落ちる場合もあれば、作品によっては本文よりも訳者の解説の方が面白かったりするものもあるからあなどれない。
 本書はそんな翻訳者によるあとがきばかりを35点も集めたちょっと変わった趣向の本だ。一番古いものはなんと1915年(明治45年)の「堺利彦譯 ヂッケンズ作 小櫻新吉」ヂッケンはディケンズとすぐわかるが、小櫻新吉? 小櫻新吉って誰だ? と思ったら、なんと“「オリヴァー・ツゥイスト」翻案”とあって思わず笑ってしまった。けれども、この翻訳者あとがき、読んでみるとなかなかの深みと味わいがあって面白い。
 続いて登場するのは1927年(昭和2年)の「乞食と王子 マーク、ツエイン作 村岡花子譯」。若干古めかしい気はするけれど、時代を考えるとさすがとしかいいようのない安心安定のクオリティだ。
 ジャンルも著者も訳者もまちまちながら、なかなかに読み応えのある“あとがき”が、2014年(平成26年)の「沓掛良彦訳 エラスムス作 痴愚神礼讃――ラテン語原典訳」までずらりと並ぶ。
 中には20ページ越えの文章から抜粋されているものもあるが、作品に対する訳者の並々ならぬ思い入れが読み取れるものもあれば、作品を喰ってしまっているかのようなインパクトの強いあとがきもあって興味深い。
 こういう本を手に取ると、またまた読みたい本のリストが長くなるに違いないとは思っていたが、案の定、ゴーゴリの『死せる魂』を平井肇訳で、カポーティの『遠い声 遠い部屋』は訳者である河野一郎さんの思い出込みで、次にチェーホフを読むときは小野理子訳で……という具合に、またまた読みたい本を増やしてしまった。


選評:出版関係の仕事をする人は、本を奥付から読む(というか、「見る」)確率が多いですよね。奥付から遡って「あとがき」に目を通す人も多いのでは。それは、その本の「舞台裏」から見てやろうという(いじわるな?)発想があるからかもしれません。読書の世界は「あとがき」からさらに広がっていく……。
次選レビュアー:calmelavie〈『一瞬と永遠と』(朝日新聞出版)〉、ef〈『『罪と罰』を読まない』(文藝春秋)〉







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