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評者◆堀江奈津子(くまざわ書店阿久比店)
湯気の立つひと椀で一日をはじめる
毎日のお味噌汁
平山由香
No.3259 ・ 2016年06月18日




■この連載のお話をいただいた時から、一回は実用書を紹介したいと考えていた。勤めている書店はショッピングセンター内にあり、実用書が売上ジャンルの上位になることも少なくない。とはいえ、実は実用書担当ではない私(全般を見ているので、実用書の新刊を陳列することがすくない)、どうしたものだろうとデータチェックをしていた。そんな時に目にとまった『毎日のお味噌汁』というタイトル。そしてその数日後実物を見て「これだ!」と思ったのだ。
 一汁三菜との言葉があるように、汁物は食卓に欠かせなかった。しかし、食文化の変化とともに味噌汁を毎日飲む人は少なくなっているようだ。朝ご飯にパンを選ぶことも多い。しかし、ちょっと寝不足の朝にお出汁の香りを感じて、濃い目のお味噌汁を啜るとなんとなくしゃきっとするのだ。
 『毎日のお味噌汁』では、お味噌汁復活委員会の代表でもある料理研究家平山由香さんのお味噌汁日記にレシピが添えられている。レシピといっても具材・吸口・出汁と味噌の種類・簡単な手順だけで、その分ひと椀の写真がたくさん載せられている。野菜の切り方などは「その日の気分で楽しみながらつくってほしいから」記述はなし。
 お味噌汁としては定番の組み合わせから、平山さんいわくアヴァンギャルドなお味噌汁まで季節の素材をふんだんに盛り込んだお味噌汁の数々に「何が入っているんだろう?」とわくわくしながら写真をながめることができる。
 表紙のアヴァンギャルドなひと椀は、白味噌・モッツァレラチーズ(!)の白、ミニトマトの赤、オリーブオイルの黄色が鮮やかなもの。パルメザンチーズをさらに加えることで味の変化が楽しめるという。味噌とチーズ、発酵食品なので相性がよいのはわかっていたが、お味噌汁になっているのを見るのはなぜか新鮮。これならパンに合わせても違和感がなさそう。
 季節の素材がたくさん入ったひと椀はどれも美しく健康的である。また、基本の出汁に昆布や煮干しの水出汁を使用しているので、ささっと用意ができ、朝忙しい方にもおすすめできる。
 私は細かく手順が書かれている料理の基本書より料理日記をながめるのが好きである。たぶん、どんな食材を組みあわせたらどんな美味しいものがつくれるのか、そのアイデアを手に入れたいのだと思う。アイデアを手に入れたところで、だいたい満足して終わってしまうのがいけないところなのだが。
 そしてどんな味かなと想像したいので、詳しい手順はない方が楽しい。詳しい手順や時間が書かれていることで、なんだか分かったつもりになってしまい、結局つくらない。これは自分くらいかと思うが、実用書でも想像して楽しみたい。レシピの再現しやすさも大切だけれども、それだけではつくりたいと思わない。パブロフの犬みたいにながめているだけで、「ああ、おいしそう」と思う本がいい。
 この本は「ながめて楽しい」と「つくってみたい」のバランスがよいように感じる。それは「お味噌汁」という日本人のソウルフードの力でもあるのだろう。







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