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評者◆殿島三紀
最後に少女は勝つ!――デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督『裸足の季節』
No.3259 ・ 2016年06月18日




■『神様メール』『走れ、絶望に追いつかれない速さで』『ロイヤル・ナイト』『裸足の季節』等を観た。
 『神様メール』。まじめなクリスチャンなら目を回しかねない映画である。主人公の父は神様で、母は女神。兄はJCつまりイエス・キリスト。この神様ときたらパソコンだけがお友達。面白半分に事故や天災を起こし、人間たちを困らせ、妻の女神や娘のエアに威張り散らす陰険なおやじだ。そんな神様を困らせようとエアが人間たちに一斉に余命メールを送りつけたから、さあ大変。ベルギーの監督、ジャコ・ヴァン・ドルマル作品。
 『走れ、絶望に追いつかれない速さで』。タイトルがなんともそそる。26歳の若い監督・中川龍太郎の自伝的な作品。親友の死を受け入れられず、鬱々と日々を送る青年が主人公である。ビルの屋上、主人公と親友とで見る夜明けの東京。明けゆく空に見た飛翔体に興奮した二人が屋上で鳥のように両腕を拡げて走り回るシーンが印象に残る。遠い昔に置いてきた若い日々を思い起こさせる映画だった。
 『ロイヤル・ナイト』。今年90歳を迎えるエリザベス女王。その在位期間も64年に。英国史上最高齢、最長在位の君主である。そんなエリザベスが19歳だった1945年5月8日、ヨーロッパ戦勝記念日、90年の人生ただ一度お忍びの一夜を過ごす。それはまるで『ローマの休日』(53)のよう。『ローマの休日』は女王のこの実話を元に生まれたのでは? という声もあるほど。監督はジュリアン・ジャロルド。
 今回紹介するのは『裸足の季節』。本作がデビューとなるトルコ出身デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督の作品である。米バラエティ誌が選ぶ「注目すべき映画監督10人」に選ばれた38歳の美しい女性監督。トルコの5人姉妹が主人公。ガールズ・ロードムービーとでもいおうか。監督自身の体験も織り込んだ本作は、2015年のカンヌ国際映画祭でヨーロッパ・シネマ・レーベル賞を受賞。アカデミー賞フランス映画代表に選ばれ、同外国語映画賞にノミネートされた。フランス語以外の作品がフランス代表になったのは『黒いオルフェ』(59)以来なんと56年ぶりだ。
 今更ではあるが、「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」という言葉をイヤというほど実感させられる映画だった。主人公はイスタンブールから1000kmも離れた小さな村に住む5人姉妹。10年前に両親を事故で亡くし、現在は祖母、叔父夫婦と暮らしている。とはいえ、親はいなくても思春期真っ盛りの姉妹5人、学校生活を楽しみ、日々生き生きと暮らしていた。ところが、学期末、学校からの帰り道、男子生徒と騎馬戦をして遊んでいたところを近所の人が目撃し、祖母に告げ口。「なんてふしだらな!」と祖母からはひどい折檻を受け、叔父は姉妹たちを産婦人科へ連れていく!
 トルコは既に1930年代という早い時期に女性が参政権を獲得した国でありながら、最近女性差別が目立っている。例えば、男女生徒が同じ階段を使うのを禁じる学校、女性は家事に専従し、子を産んでいればいいという女性蔑視。そんな状況に対してつきつけられたのが本作。原題の「Mustang」は「野生の馬」という意味だ。主人公たちの躍動感はまさに野を駆ける野生の馬そのもの。駆け回る駿馬を狭い小屋に閉じ込めることなど所詮無理な話なのだ。なんでも性に結びつけて曲解する祖母、叔父、村人たちのいやらしさ。でありながら、女にだけ純潔を押しつける頑迷さ。天真爛漫に少女時代を送っていた姉妹たちが、ある日を境に200年前に戻ったかのような籠の鳥にされて……。ボーヴォワール女史の言う如く、周囲によって無理矢理旧来の女性像へと造り変えられてしまうのか? 否。
 末っ子の知恵と勇気が痛快だ。未来を切り開く少女の活躍が小気味好い。
(フリーライター)







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