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評者◆西村仁志(ジュンク堂書店新潟店)
最良の吉増剛造入門
我が詩的自伝――素手で焔をつかみとれ!
吉増剛造
No.3258 ・ 2016年06月11日




■事件である。日本現代詩の最前衛、吉増剛造氏の自伝が上梓されたのだ。しかも、誰もが手に取りやすい新書という形態で。自伝といっても、本書はインタビューというか語りの形式で編まれたものとなっており、生い立ちは勿論、詩作に纏わるエピソードなどが独特の語り口で紹介される。合間合間に何編かの詩を挿んであり、新書とはいえ非常に充実した内容であると思う。
 吉増剛造といえば、やはりその特徴的な作風が気になるところだ。そもそも詩作において、「言語を枯らす」ようにするというのだ。「限界にさわる言語のぎりぎりのところまで行くために言葉を枯らすようにする」、「「言語の極限」を目指すということに収斂するのでしょうが、……そうしないと詩なんて出てこないからね」と。凄まじいとしか言いようがない。加えて交友関係の多彩さも一役買っていることだろう。自らを「引きこもり」などと称しながらも、なんと幅広い繋がりか。本書においても様々な著名人の名前が出てくる。詩人や作家などの同業者はもとより、映像作家や音楽家、彫刻家に舞踏家まで。実際にこれらの人たちとの共作もあり、例えば自作の朗読をとあるミュージシャンと共同のパフォーマンスとして行っていたりする。実際にその様子を映像で見たことがあるが、朗読そのものも鬼気迫るものがあり、会場そのものが異空間と化していた。「詩人に出来ることというのは、母国語で自作を読むということしかないということに気づいたのね。……でも、それでも「歌」をとどかせようとして心血をそそぐとね、変なことになるのよ。仕草もね。「舞踊」にも近づくし、後年では「絵」に近づくことにもなってきた。さあ、これからどうなりますか……」。総合芸術家とでも言おうか、とにかく普通の意味での詩人という範疇には到底収まらないように思う。最新作の『怪物君』もそういったものの成果であろう。
 ところでその『怪物君』も含め、6月上旬にかけて続々と吉増氏の新刊が刊行される。併せて、東京国立近代美術館で展覧会も始まる。今夏は吉増剛造という途方もない詩人から目が離せない。
 思えば、この詩人の名前を知った当時に、興味本位で詩集を開いたときの驚愕たるや尋常ではなかった。そこには我々がよく知る明朝体と共に手書きの象形文字のようなものがさも当然と言わんばかりに並んでいるではないか。あまりのことに度肝を抜かれた私はそれをマトモに読むこともままならず、静かに本を閉じた。以来、吉増剛造氏は私にとって果てしもないひとつの謎であった。本書によって、その謎に少し近づくことが出来たように思う。最良の吉増剛造入門である。







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