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評者◆高坂浩一(堀江良文堂書店松戸店)
文芸の「春の時代」の足音が聞こえてくる
小説王
早見和真
No.3257 ・ 2016年06月04日




■昨年発売になった『95』で、1995年の渋谷の空気感とそこに集まる高校生の疾走感を見事に描いた早見和真の新刊が、出版業界を描いた作品で、タイトルが『小説王』、しかも装画に土田世紀が使われているというんだから『編集王』を思い出さずにいられない。これは読む前からハードルが上がってしまったぞ!! なんて思いながら読み始めた。
 小学生の学級新聞の委員として短い期間ながら一緒に過ごした俊太郎と豊隆。大学入学後に応募した小説ブルー新人賞を受賞した豊隆、受賞作は重版を重ね映画化もされるという華々しいデビューを飾るが、その後はヒット作に恵まれず苦しい日々が続く。一方、俊太郎も作家になりたいという思いはあったものの、豊隆のデビュー作を読んだことをきっかけに作家になることを諦め編集者になるが、出版不況もあって厳しい状況が続く。そんな八方塞がりの2人がタッグを組み、渾身の1冊を創りあげ大勝負をするために奔走する。
 本書は文芸作品を取り巻く状況を生々しく描いていて、例えば文芸誌編集長の「名前だけで売れる作家の作品以外は、一行で読者に『おもしろそう』と思われなきゃ売れねぇんだよ」という発言や、人気ベテラン作家の「とどのつまり俺たちは陣取り合戦をしているんだ。ただでさえ減っている本屋の、さらにまた数少ない文芸書っていう棚を奪い合ってるだけなんだ」や「どこの書店を回っても思ってた以上に人がいなかった。特に地方は壊滅的だし、文芸の扱いの悪さはショックなぐらいだったよ。俺だって当然売り上げは落ちているわけだし、頭では理解しているつもりだったんだけど、実際にこうして歩いてみなきゃわからないことって多いよな」という発言など、書店員として日々売り場で感じている厳しい状況がこれでもかと描かれている。
 そんな状況でも、俊太郎や豊隆をはじめ、この作品に出てくる作家や編集者は物語の持つ力を信じて前を向いているところに胸が熱くなる。そんな彼らを支える家族や恋人、クラブのママやバーのマスターまで丁寧に描いていて、物語の厚みを増すのに一役買っているところも魅力である。
 小説を完成させるためにどれだけの人が関わり情熱が注がれているかを知ることができるのと同時に、読者はそこに引っ張られることなく、純粋に良し悪しだけで作品を評価するべきであるというスタンスをとっているところに好感が持てる。
 作品冒頭の「ホストです」というつかみから最後のページまで一気読みさせる猛烈な熱量を持った本書は、『編集王』を読んでいた人は勿論、小説を好きなすべての人に読んで欲しいと思える素敵な作品になっている。いやぁ~文芸冬の時代と言われて随分経つけど、こういう作品を読むと春の足音が聞こえてくるんじゃないかという期待感を抱いてしまう。その時のために我々書店員は日々売り場を耕し準備をしなければならない。さぁ、今日も仕事頑張るぞ!!







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