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評者◆第21回 高砂市立図書館(兵庫県)
紆余曲折を経て、待望の新図書館が完成――蔵書移送、配架、スタッフ研修~新館オープンまでの顛末
No.3257 ・ 2016年06月04日




■兵庫県高砂市は今年2月14日、総工費17億円をかけて、JR山陽本線・宝殿駅近くに、新・高砂市立図書館を移転オープンした。これまで木造校舎の跡地を利用していた旧図書館(約510平方メートル)から、地上2階建て・延べ床面積2830平方メートルと5倍以上の広さの建物に生まれ変わった。開館初日には約4900人が来館し、5200冊の図書が貸し出された。その後も平日は1日平均約1000人、休日には倍の2000人が来館するほどの盛況ぶり。2カ月半後の4月26日には予定よりも早く入館者が10万人を突破するなど、幸先の良い船出となった。本稿では、旧図書館から新図書館への移転・開館までの流れを大塩正一館長の説明とともにレポートする。


■旧図書館は木造校舎

 兵庫県高砂市は、西に人口53万人の姫路市、東に人口26万人の加古川市に挟まれた都市。人口は両隣に比べてわずか9万3000人という規模で、市内には唯一の旧高砂市立図書館(以下、旧館)が山陽電鉄本線・山陽曽根駅近く、歴史民俗資料室や高齢者大学・松陽学園などが集まる「高砂市教育センター」内にあった。
 旧松陽高校の校舎だった2階建ての建物をそのまま利用していた旧館は、土足厳禁のため入口には下駄箱を設置し、一般開架室や児童室、閲覧室、事務室などは職員室や教室を居抜きで活用しており、学校そのものが図書館になったと思わせるつくりだ。蔵書数は開架約4万冊、閉架約7万冊。年間の個人貸出冊数は約7万3000冊で、年配者や近隣の小学校の生徒が主な利用者だったという。また、図書の貸出についても、学校図書館用に個人が開発したフリーの図書館システムを利用しながらも、「紙の貸出カード」を併用するなどレトロな部分も残していた。
 「この建物自体は昭和42年に建設されたもの。高砂市立図書館自体は昭和33年に旧高砂町役場(高砂町北本町)に開館し、昭和53年からこの校舎跡に移った。それから38年。紆余曲折を経て、市民が待望する新図書館がようやく開館した」(大塩正一館長)
 近隣の加古川市立中央図書館やウェルネスパーク図書館は高砂市民も広域利用が可能なため、厳しい運営を強いられていた旧館だったが、同館の老朽化も進むなか、高砂市は平成5年3月に高砂市米田町の一角にある「米田多目的広場」を総合教育文化施設用地とし、その施設のなかに新図書館を建設する方針を決めた。平成6年度には同施設整備の基本方針を策定、平成7年度には高砂市総合教育文化施設整備審議会から答申を受け、平成12~13年度には建設基本設計、実施設計を行うなど準備を進めていた。しかし、時期を同じくして、日本のバブル経済が崩壊。財政が悪化する地方自治体が相次ぐなか、高砂市も財源確保が困難になり、教育文化施設の計画自体が凍結された。
 しかし、平成21年度に高砂市は教育文化施設等庁内検討委員会を設置して、市民が望む新図書館の建設に向けて再始動した。その原動力となったのが、同年に実施した市民アンケート。旧館に対する不満足度の高さとともに新図書館を期待する市民の声が露わになったのだ。同委員会が新図書館構想をまとめた後、市民などで構成する「新図書館構想策定委員会」を立ち上げ、民意を反映した新図書館の構想の具体化に着手。当初の総合文化施設の計画をコンパクト化し、新たな時代に対応した新高砂市立図書館の建設が実現した。

■新館への移行 蔵書の点検・装備

 旧館の閉館までの運営と新館への移行・新館の運営を担っているのが、2015年度から指定管理者となった図書館流通センター(TRC)だ。同館の責任者には、加古川市のウェルネスパーク図書館で館長を6年務めた大塩氏が招聘された。
 昨年10月には新館の建物が完成。これを機に旧館を9月末で閉館し、新館への移行が始まった。新館の開館予定日は今年2月、「移行期間に4カ月半いただけたので、余裕を持って移行作業が行えた」という。
 TRCが新館の立ち上げを受託するケースは2種類ある。ひとつはTRCの子会社である図書館総合研究所が新館の設計段階から関わるもの。もうひとつは、地方自治体が基本設計した図書館を引き継いで運営するケースだ。今回は後者の事例となる。
 完成した新館を建設・施工会社から引き渡され、現地説明会が行われた時点では、まだ館内はがらんどうの状態だった。そこに書架がレイアウト通りに設置され、8の公民館に貸し出していた図書を旧館に集約した11万冊の資料が詰められた段ボールが、養生されたブルーシートの上に続々と運ばれた。
 10月下旬には図書の移送とICタグの装備を請け負った業者が1冊1冊にICタグを貼り付ける作業に入った。ICタグを貼付するのは、新館に自動貸出機を導入するためだ。1冊ずつにタグを張り込むだけではなく、図書の書誌データをタグに入力し、実際にリーダーで読み込んで確認。入力が正常であれば書棚に配架する、という作業を1冊1冊、11万回繰り返す。ちなみに、新館のために新たに購入した図書は、TRCの新座ブックナリーでICタグを装備済みのため、データの確認作業だけで済んだという。

■スタッフ研修

 9月末に閉館した後、旧館で働いていたスタッフは、TRCが指定管理業者として運営する近隣の図書館へ研修に向かった。明石市立西部図書館に1人、大塩館長の古巣であるウェルネスパーク図書館に2人、海洋文化センター図書室に1人、播磨町立図書館に2人など、総勢8人のスタッフを各図書館に送りこんだ。
 「旧図書館の閉館前3カ月間の1日平均の入館者は210人・貸出冊数は219冊・貸出人数は87人。非常に厳しい状況だったが、2月の新館開館以降は、忙しくなることが目に見えている。旧館のスタッフは忙しい図書館実務の経験や、おはなし会など様々なイベントの開催ノウハウが乏しかったため、あらかじめ、経験してもらうために繁忙館へ研修に行ってもらった。TRCの指定管理館同士、近隣で協力し合えるのがありがたかった。人を育てることが、館長である私の一番の仕事」
 新館オープンに向けて、近隣に在住する9人を新たなスタッフに迎えた。総勢17人は昨年12月に、NECのインストラクターを招いて、新館に設置されたNECの図書館システムの講習を受けた。さらに、TRCMARCや検索システム「TOOLi」の使用方法、レファレンスや児童サービスなど図書館員として必要となる様々な実務研修も行われ、スタッフのスキルアップを図っていった。
 一方、大塩館長は「11月から12月にかけて、ようやく事務室などの椅子や机といった什器が搬入された。それまでは座るところもない状態」の新館で、高砂市の図書館担当者や、図書や銅像などの寄贈を申し出る地元のロータリークラブや医師会など、地元の図書館支援者たちとの打ち合わせを重ねていた。
 年を越えると、館内も徐々に図書館の様相を呈してきた。床全体に張られた養生のブルーシートもカウンター前のみになっていた。2月10日には最終的な確認の意味を含めて「直前研修」が行われた。入口の自動ドアの開閉や書籍消毒機、セルフ貸出機、利用者用のコピー機など各種機器の使用方法の確認、館内施設の確認を行ったほか、様々な利用者を想定した接遇のロールプレイングも実施、14日の開館に向けて万全を期した。
 同時に、新館では新たな図書利用カードに切り替えるため、開館前の8日間、高砂市役所南館など市内4カ所の会場で図書利用カードの新規登録も行った。延べ2600人が登録した。

■新館オープン

 2月14日の開館日。市長らのテープカットが行われた記念式典は正午には終了。開館後は、図書利用カードの新規登録のために、登録カウンター前には20人メートル以上の行列ができていた。午後6時までの半日で890人が新規登録し、合計4900人が来館した。
 新館の蔵書冊数は15万冊(4万冊を新規購入)。収容可能冊数は20万冊(開架・7万5000冊、書庫・12万5000冊、雑誌150タイトル)。1階の延べ床面積は1839平方メートル、2階は990平方メートルという広さ。1階エントランスホールには、飲料の自動販売機とともに椅子とテーブルを配置したラウンジを設けた。正面の壁には、江戸時代に高砂市出身の工楽松衛門が発明した松衛門帆が飾られ、古代から高砂市で産出される竜山石を壁面に使用している。
 入口を過ぎると、児童書コーナーと新刊展示コーナーが正面に。入口から右手は絵本や児童書、おはなしのへや、授乳室などが配置された親子連れの児童向けスペースが広がる。入口左手にはレファレンスや問合せなどに対応するサービスカウンターがあり、周辺には検索機やセルフ貸出機が並ぶ。その奥には一般書や雑誌、郷土資料、文庫コーナーなどや対面朗読室が配置され、周囲には多くの椅子と机が用意されている。2階はイベントや自習のための多目的スペース、ボランティア室、読書スペースのほか、屋上テラスも設けられた。
 「開館当日はすでに100人近くが並んでいたため、予定より20分前倒しして開館した。その後も閉館時間まで途切れることなく利用者が来館していた。開館から3カ月経った今も来館者は多く、本の貸出は約75%が高砂市民。図書利用カードの新規登録数も平日は2ケタ、休日は3ケタの数にのぼる。ただ、今はまだ目新しいという理由で来館してくれている。これからは図書館の中身が勝負となる。今後は大人向けの朗読会など、どんどんイベントや展示企画などを増やしていき、もっと高砂市民の役に立つ図書館になっていきたい」







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