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評者◆殿島三紀
死を想う……メメントモリ――クリスティアン・チューベルト監督『君がくれたグッドライフ』
No.3256 ・ 2016年05月28日




■『山河ノスタルジア』『ノーマ、世界を変える料理』『ヴィクトリア』『君がくれたグッドライフ』を観た。
 『山河ノスタルジア』。ジャ・ジャンクー監督初の海外ロケ作品だ。主演は監督の妻でもあり、同監督作品のミューズであるチャオ・タオ。『罪の手ざわり』で第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門脚本賞を受賞したジャ・ジャンクーが、1人の女性と彼女に思いを寄せる2人の男の人生を1999年、2014年、2025年という3つの時代と社会を通して描いた。豊かにはなったが、確実に何かを失っている中国の姿が見えてくる。
 『ノーマ、世界を変える料理』。今や、ミシュランよりも若きシェフたちのプロ意識を掻き立てるという世界的な賞「世界ベストレストラン50」で4度も1位を獲得したレストラン「ノーマ」とそのカリスマオーナーシェフであるレネ・レゼピに、ピエール・デュシャン監督が4年間密着して撮影したドキュメンタリー映画である。デンマークだけの食材にこだわって食を追求する。その食材は蟻であったり、苔であったり。食の革命家のひと味変わった料理を目で味わって頂きたい。舌で味わうのはちょっと……?
 『ヴィクトリア』。セバスチャン・シッパー監督。クレジットを除いた2時間14分という映画の全編がワンショット、ノーカット。撮影開始は午前4時半、終了は午前6時54分。監督はわずかな覚書のみで140分間通しで早暁のベルリンを撮影。脚本もない。ボーイ・ミーツ・ガールものと思わせ、銀行強盗、手に汗握る逃走劇、団地内での銃撃戦――面白い! そして、意外なストーリー展開にぶっ飛ぶ。奇跡のような140分。
 今回紹介するのは『君がくれたグッドライフ』。安楽死をテーマにしたドイツ映画である。主人公は働き盛りの40代男性ハンネス。脚本は本作が脚本家デビュー作となるアリアーネ・シュレーダー。ミュンヘン映画大学の学生時代、本作の監督クリスティアン・チューベルトのセミナーに参加して生まれた脚本だ。固い友情に結ばれたグループがベルギーへ最期の自転車旅行へ出かけるという物語。なぜベルギーへ行くのか? なぜ最期なのか?
 死は老弱男女関係なく訪れる。テーマは重いが、随所に笑いあり、「なるほど」と頷くところあり、自分に置き換えるところあり、こんなことをいってはなんだが、なかなか楽しめる映画である。若い監督、若い脚本家、若い俳優たち、安楽死を選んだ主人公もまだまだ若い。よい映画を作るのに年齢なんて関係ないのと同様、死について考えるのも高齢者や思春期男女だけの専売特許ではない。生きることは死への過渡期。生も死も含めての人生だ。
 ところで、なぜベルギーか。実はベルギーは尊厳死を合法化している国。安楽死、尊厳死、適切な言葉はどちらか。なかなか難しい。映画の中ではSterbehilfe(安楽死)という言葉が使われている。
 主人公はALS(筋委縮性側索硬化症)を発症し、同じ病の父を看病した家族の苦しみを見ていたため、自身は医師による安楽死を選択する。だから、まだ身体が動く内に毎年恒例の自転車旅行を楽しみ、その後、目的地で仲間や家族に死を看取ってもらうというのだ。「『タンタンの冒険』とチョコレートしかないベルギーで何するのさ」と最初は文句タラタラだった仲間たちは、こういう事情があったと知って愕然とする。しかし、友人が目の前で死んでいくのを見守らなければならない仲間たちの身になってみたら、なんとも酷ではないか。
 命の終わり方が問われる昨今。透析治療の経済効率を問うイギリスの記事を以前目にしたこともある。ALSの場合、身体の自由は利かなくても意識ははっきりしているのだから、主人公が選んだ死は医師の手を借りた自殺ではないのか、とも思う。
 これもメメント・モリ……。
(フリーライター)







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