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評者◆堀江奈津子(くまざわ書店阿久比店)
いつか名前がつくその日まで
1982――名前のない世代
佐藤喬
No.3255 ・ 2016年05月21日




■「ゆとり世代」という言葉が社会に浸透してもうずいぶんたつ。使われ始めた頃には同じように若者だったはずなのに、なぜだか「自分たちは違う」という意識が強かった。ロスジェネという言葉は、正直、社会人になってから知った。大学四年となり、さあ就活という時は「厳しいけど去年よりは景気が回復しつつあるよ」と言われた。
 どの世代でもあることだろうが、ニュースで読み上げられた犯人の年齢を聞いてドキリとすること。それが、やたらとセンセーショナルに社会を騒がせることが多かったのが、私を含む1980年代前半に生まれた世代である。少年A、加藤智大、片山祐輔、小保方晴子……。これだけ社会に印象を残しながら、この世代には明確に名称が付けられていない。ジェネレーションYと呼ばれることもあるようだが、これはアメリカのジェネレーションXの次の世代という意味なので、日本に当てはめるには適切ではないように感じる。ちなみに、この言葉を知ったのはこの世代(1983年生まれ)のシンガーソングライター、高橋優の曲「ジェネレーションY」からだったりする。社会的にいろいろ議論された世代のはずなのに、名前がないという事実。名づけられればきっと反抗するのであろうが、名前がないと気づくともやもやしてしまうのは不思議なものである。
 『1982――名前のない世代』では、先にあげた社会の注目を集めた「彼ら」と同年代である著者自らが見た時代(自分の偏見も含むと正直に書かれている)を振りかえることによって、この世代の普遍的な気分=この世代の雰囲気を確認することを目的としている。この名前のない世代に犯罪が多いという事実があるわけではないとしつつも、特殊であった「彼ら」にも共通する時代の傾向を読み取りながら項は進んでいく。
 テレビで見た湾岸戦争、オウム真理教事件、阪神・淡路大震災、普及していく携帯電話やインターネット、そして神戸連続児童殺傷事件をはじめとした、名もなき世代が起こし、社会を震撼させた事件。社会現象として大人が語るのではなく、当事者と同世代の立場からこれらの事件や事象が社会でどう扱われ、それをどう見ていたか、という視点で語られるのは新鮮である。
 特に「キレる17歳」という世代名が臨時で与えられた項では、武田砂鉄氏のインタビューを引用しながら、社会的な話題と関連させて饒舌に語っていたメディアに対して「あれほど議論があったにもかかわらず、結局、結論が得られなかったということである」と冷ややかに見ている。同世代の者として、殺人や傷害事件を起こした一部と普通に毎日を過ごしてきた私たちをひとくくりにされたあの当時の空気感を思い出すには十分であった。
 最終的に、この名前のない世代の雰囲気はある批評家の発した言葉でまとめられており、それは彼らの下の世代やこれからの世代にも当てはまってしまう結論である。しかし、著者は最後の項で自分を含めた名もなき世代へ向けて「社会的反抗期」はこれからだと背中を押す。あえて名前がない世代であるからこそ、これから名前を残すことになるのだろう。この本は私たち名もなき世代が本当の大人になるための第一歩になってくれるかもしれない。







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