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評者◆秋竜山
うつ病の音、の巻
No.3255 ・ 2016年05月21日




■姜尚中『漱石のことば』(集英社新書、本体七六〇円)に、なんとも、なつかしくて、泣きたいくらいに、いとおしいというものかなァ……、そんな言葉が出てきた。思い出深い響きのある言葉である。〈神経衰弱〉という四文字だ。
 〈現下の如き愚なる間違ったる世の中には正しき人でありさへすれば必ず神経衰弱になる事と存候。是から人に逢ふ度に君は神経衰弱かときいて然りと答へたら普通の徳義心ある人間と定める事に致さうと思ってゐる 今の世に神経衰弱に罹らぬ奴は金持ちの魯鈍ものか、無教育の無良心の徒か左らずば、二十世紀の軽薄に満足するひやうろく玉に候。(鈴木三重吉宛書簡、明治三九年六月六日付より)漱石が門下の鈴木三重吉に宛てた手紙です。神経衰弱とは、今言うところのうつ病です。現代においてはうつなるのは珍しいことではなく、むしろ、うつであるほうが普通であると言っても過言ではありません。漱石もまったく同じことを言っています。(略)〉(本書より)
 漱石ほどの有名な作品名は、知らない人より知っている人のほうが多いだろう。知らないと答えると、教養のレベルがわかってしまいそうで、実際は知らなくても、「知ってますとも」と、答えてしまうだろう。文学作品もそれくらいになると、もうしめたものである。国民的となる。なにがしめたものかというと、私の悪いクセかもしれないが職業とむすびつけて、すぐマンガにしたくなるのだ。マンガとは、この場合は、有名な漱石の文学作品をマンガでパロディすることである。〈吾輩は神経衰弱である〉や「それから神経衰弱」とか、いったぐあいである。私にとっては〈神経衰弱〉という呼び名が少年の頃の記憶としてキョーレツであった。昔、あの頃は〈神経衰弱〉ばやりだったんだろうか。医者は患者にすぐ「神経衰弱です」なんていった。もちろん私にではなく、病弱の母親に対しての診断であった。いや、そのように診断されたというより、母親たちの話を聞いていて〈神経衰弱〉という言葉をおぼえたのであった。母親は柱時計の音のコチコチが気になって眠れないと寝がえりばかりうっていた。そして、時計を止めたりした。止めたからといって眠られるということもなかった。当時、神経衰弱という言葉をすぐつかった。子供たちのあいだでもその言葉がよくつかわれた。神経衰弱というトランプのゲームがあった。記憶力のゲームである。神経衰弱は今でのうつ病ということになるのだろうか。今風であることからか、神経衰弱といわれてもピンとこないが、うつ病といわれると深刻になるだろう。あの昔やったトランプの神経衰弱という遊びは、今風にいうと、うつ病というゲームになるのだろうか。「トランプでうつ病をやろう」ということになるだろう。うつ病というとなんとも不ゆかいな気分になってしまう。うつ病のゲームなどはやりたくない。柱時計のココチという音も、なんとなく神経衰弱をなやます音のように思えるのだが、うつ病の音となると、まるっきり意味が違ってくるものだ。







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