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評者◆西村仁志(ジュンク堂書店新潟店)
ハードコアな「沢ヤ」の冒険哲学
外道クライマー
宮城公博
No.3254 ・ 2016年05月07日




■予め断っておくと、私は普段からアウトドア遊びをするわけではないし、であるから当然そういった本もこれまで読んだことはなかった。ひょんなことから本書の存在を知り、調べてみると書き手は「冒険界のポスト・モダン」との呼び声があるようで、その響きに惹かれて手に取った次第である。
 本書は『外道クライマー』というそのタイトルよろしく、著者が逮捕される場面から始まる。和歌山にある日本一の滝(しかも御神体)、那智の滝を登攀したためである。私はこの突拍子もないエピソードだけであっという間に引き込まれてしまった。そもそもなぜそんなところを登ったのかということになるのだが、著者は「国内の岩壁や大滝が登り尽くされたこの現代に、未だ日本一の滝が未登のまま残っている」、「そんなものがある以上、沢ヤなら登りたいと思わないほうがおかしい」という。本能に忠実というかなんというか。とにかく著者はこの一件で職を失うも、国内外の大きな沢や山への登攀に挑戦していく。
 具体的に本書では立山称名滝冬期登攀、台湾チャーカンシー遡行、立山ハンノキ滝冬期登攀、タイのジャングル46日間遡行といった偉業を成し遂げた様子が描かれるのだが、とにかく面白い。そのいずれもがいかに悪絶(沢ヤ界の造語で筆舌に尽くしがたい形容のことらしい)な状況であったかということが迫力ある筆致で綴られる。しかもこれらは全て人類初の試みであるというのだ。ここには著者の一貫した冒険哲学とも呼べるものがある。著者はまず世間が冒険の意味を正しく認識していないとした上で曰く、「人類にとって初めて行われた挑戦的行為と、その個人にとってみれば初めての挑戦的行為とを、同じ「冒険」というカテゴリーに入れてしま」うと誤解が生まれるとのこと。「人類にとってのパイオニアワークと、個人の秘境旅行とでは、同じ冒険でも雲泥の差」であり、「擬似的な冒険が溢れていくと、結局、何が本物か誰もわからなくな」ってしまうのだという。「山を目的にしてその他一切を捨てて生きている沢ヤやクライマーが魂を込めて挑んだ未踏壁やゴルジュ、それらは冒険といっていい」。アウトドアブームなどどこ吹く風、そういったものへ真っ向からぶつかるこのハードコアな姿勢を見よ。また、その精神が見事に文章に反映されているから、読んでるこちらの臨場感たるや、共に冒険しているかのようなスリルが味わえる。私にとって初の山岳ノンフィクションは、非常に刺激的な読後感をもたらした。
 最後に一番痺れた箇所を。「俺は沢ヤだ。どうしようもなく沢ヤだ。どれだけ誘惑があろうとも、たとえ目の前で美人女優がM字開脚をして誘ってきたとしても、沢ヤなら沢に行くのだ。それが沢ヤだ。まぁ、本当にそんな誘われ方したら、一発ヤった後に沢だ。それが沢ヤであり男である俺の流儀だ」。宮城公博氏の更なる活躍に期待したい。







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