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評者◆秋竜山
お前はなぜ動かないのか、の巻
No.3254 ・ 2016年05月07日




■稲垣栄洋『植物はなぜ動かないのか――弱くて強い植物のはなし』(ちくまプリマー新書、本体八二〇円)を、読む。この本のタイトルが自分にむけられた、ひとことであるように思えた。〈お前はなぜ動かないのか〉と、読めなくもない。「まったく、すこしは動きなさいよ!!」と、妻の口うるささが家の中で何度か耳にはいる。「湯のみだったら、そこにあるじゃないの。自分でとって、のみたかったら勝手にのみなさいよ!!」。私がなぜ動かないのか。それは自分の体を動かすのがめんどくさいからだ。はやい話が、ものぐさである。植物はなぜ動かないのか。ものぐさではない。動きたくても動けないからだ。昔から、植物に、動け!! なんていった人、聞いたことも見たこともない。口うるさいグチる妻でも、そんな無茶なことはいわない。私が本書のタイトルに驚いたのは、この発想である。一つには言葉の発見といっていいかもしれない。〈植物はなぜ動かないのか〉。これは、幼児の発想かもしれない。ある時、突然に幼児に、〈ねぇ、植物はなぜ動かないの?〉と、聞かれたとする。私だったらきっと、その場で腰をぬかすほどビックリしてしまうだろう。これは、大哲学であるだろう。〈ねぇ、人間はなぜ動くの〉と、同じ意味を持つはずだ。
 〈私たち人間のように、歩き回ったり、走ったりすることもないし、食事もしない。どうして植物は動かないのだろうか?その答えを植物に聞いてみたら、植物はきっとこう答えるだろう。「どうして、人間はあんなに動かなければ生きていけないのだろう。」植物は動く必要がない。だから動かずに生きている。一方、動物は、その名のとおり動かなければ生きていくことができない。だから動き回っている。それだけのことだ。〉(本書より)
 動物が動きまわることのできるのは、下半身すべて足であるからである。植物の下半身は地の中に根を張りめぐらせているから、つまりは足を持っていないからである。そんな、あたり前のこと、気づくか気づかないだけのことかもしれない。気づくというより、そんなあたりまえ過ぎることを考えている人こそ変わっているかもしれない。ちなみに、誰かに質問してみるとよい。「植物はなぜ歩かないのだろうか?」。ちょっと、病院へ行ったほうがいいんじゃァないのか。
 〈私たち人間は、万物の霊長と言われる。そのせいか、人間を基準にして、他の生物の生き方を見てしまいがちである。〉(本書より)
 人間は万物の霊長である。という言葉によって、これもあたりまえ過ぎてしまったのである。
 〈古代ギリシャの哲学者アリストテレスは自然界には階層があり、植物の上に動物があり、動物の上に人間があると考えた。つまり生物の世界では最下層に植物があり、頂点に人間があるとしたのであった。〉(本書より)
 その、アリストテレスは面白いことをいった。「植物は逆立ちした人間である」。たしかにそうである。人間の口は上半身。植物は下半身。生殖器である花は上半身。人間は下半身。植物に対し、クツジョク的ないいかたとして、〈植物人間〉がある。植物のように動けなくなってしまった人間。もっと別ないいかたはないものだろうか。植物のことを考えると。







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