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評者◆高坂浩一(堀江良文堂書店松戸店)
日本は「納豆後進国」なのかも……
謎のアジア納豆――そして帰ってきた〈日本納豆〉
高野秀行
No.3253 ・ 2016年04月30日




■いきなりテレビ番組の話で申し訳ないのですが、『クレイジージャーニー』という番組をご存知だろうか? 2015年の正月特番を経て同年4月にレギュラー放送になった番組で「独自の目線や強いこだわりを持って世界や日本を巡る人々(=クレイジージャーニー)がスタジオに集結し“その人だから話せる”、“その人しか知らない”…常人離れした体験談を語る!」と番組HPに書いてある。
 そんな常人離れした体験をしている作家で、この番組にいつ出るのだ? と待ち望んでいた辺境作家高野秀行さんが今年の1月に遂に出演した。1週目は『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)と『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)、2週目は『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)と『恋するソマリア』(集英社)の話をした。これがキワモノ扱いではなくリスペクトを感じさせる内容で、MCの松本人志さんをはじめ小池栄子さん、設楽統さんが面白く盛り上げていたこともあって、この番組で高野秀行を知った人は上記の作品を読みたくなったのではないかと思える素晴らしい内容だった。
 そんな番組出演で盛り上がった3ヶ月後に発売になる高野秀行さんの新刊は辺境……ではなく納豆をめぐる話と聞いて、一瞬拍子抜けしたものの、読み始めたら思った以上の高野ワールドに夢中で読んでしまった。
 タイ旅行で食べた納豆料理をきっかけにアジアと日本の納豆の違い、納豆を食べている地域、その歴史などを調べていく。
 アジア納豆の取材方法は、納豆を食べる文化がある土地の市場で納豆を売っている人を探し、その人から作り手を紹介してもらい作業を見学し、納豆料理も作ってもらうという流れ。『恋するソマリア』でソマリ料理を教わるところでも感じたのだが、食に関する取材は現地の人々が好意的に語ってくれる。やはり自分たちの食文化に興味を持った外国人に親近感を抱くからなのだろう。我々も外国人に「納豆や梅干しが好き」と言われると距離が近くなった気分になるはずだ。
 ねばりが弱かったり無かったりするものの、匂いや味が同じ納豆がアジア各地(主に山地)で食べられていること、藁を使って作るという日本人の概念を覆す作りかた、そして日本とは異なる食べ方など、「納豆=日本人」という本書で言うところの納豆選民意識が強い私は驚かされっぱなしになった。もしかしたら日本は納豆後進国なのかも知れないとすら感じた。
 アジアから日本の納豆に目を向けルーツを調べると、作る技術は進歩しているものの発祥の地も時代もはっきりしない(水戸ではないのですよ!!毎日のように食べていながら、日本人が納豆に対して無知で無関心であったことを思い知らされた。
 そんな中で、縄文時代から納豆が食べられていて、しかも最初に食べ始めたのは人間ではないかも知れないという、高野さんが立てた仮説は真実味があって大きく頷いてしまった。
 日本人のソウルフードといえる納豆で何度も驚きと興奮を味わえる本書は、高野ファンは勿論、食卓に納豆が並ぶことが多い人に是非読んでいただきたい一冊です。







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