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評者◆内堀弘
古本屋をはじめるならば――念願叶って開業するも二日で閉店
No.3252 ・ 2016年04月23日




■某月某日。もう三十年も昔のことだ。日曜日の午後、「何冊か詩集を見てもらいたいのですが」とお客さんから電話があった。私は郊外で小さな古本屋をはじめたばかりで、わずかばかりの詩歌書を載せた古書目録も作っていた。駆け出しの古本屋に声をかけてもらえたのがありがたかったし、緊張もした。
 その人はショルダーバックから四~五冊の詩集を出した。茨木のり子の『見えない配達夫』や黒田三郎の『小さなユリと』があった。どれほどの値を申し上げればいいのか、まるで試験のようだった。「どうですか、いい詩集でしょ」と言われ、「いい詩集です」と答えた。すると嬉しそうに「ありがとうございます」とまたバッグにしまうのだった。本当にただ見せに来たのだ。古本屋の客はいろいろだけど、でも自慢しに来たというのでもなく、朴訥な笑顔に腹も立たなかった。
 最近、親しい同業から、その人が亡くなったと報された。私とはすっかり付き合いも絶えていて、名前を聞いても直ぐに思い出せなかった。中学校の教師をしていたらしい。定年後に古本屋を開くのが夢で、その念願が叶って開業した。ところが、開店二日目に身体に異変を感じ、そのまま入院。戻ることなく亡くなったというのだ。たった二日間の古本屋だった。
 『日本古書通信』の三月号に「新規開店古本屋アンケート」が載っている。最近二年間で102軒が新たに古書組合に加盟したそうだ。回答はその四割ほどだが、それでも多様な在りようがうかがえて面白い。
 この記事によると全古書連加盟の古本屋は現在2135店で、数字でいえばこの二年間に38軒が減少している。単なる微減ではない。108軒が新規に加盟しているのだから、146軒が閉店したことになる。それなりに新旧は入れ替わっているのだ。
 開業するのは並大抵なことではない。それでも、古本屋は満を持してはじめるものとは思えない。蔵書量とか知識は、実はあまり関係がない。誰もが素人ではじめて、駆けながら古本屋になっていくからだ。
 二日間だけの古本屋の在庫は、業者の市場で売られた。三十年かけて蒐めたものも、たった一日の市場で整理される。あのとき見た詩集もあって、私はそれを買った。







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