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評者◆秋竜山
なんとも淋しい「般若心経」、の巻
No.3252 ・ 2016年04月23日




■「般若心経」なくして、今の仏教はありえないだろう!! なんて、思ってしまう。島田裕巳『お経のひみつ』(光文社新書、本体七四〇円)で、「般若心経」についての意味を。
 〈私たちは、汚れるということに対してもかなり神経質だ。日本の神道では、汚れを嫌い、その汚れを祓い、浄めることを重視している。「般若心経」は、汚れること自体を否定し、だからこそ浄める必要もないとしているのだ。「般若心経」が作られたインドの宗教においても、この汚れと浄めということは重視されている。それは、ユダヤ教でもイスラム教でも、相当に重要な事柄になっている。(略)「般若心経」は、汚れと浄めをともにまるごと否定してしまっている。汚れがないのだから、そもそも浄めも必要ないというわけだ。それも、「般若心経」がすべては空だとする。空の思想にもとづいているからだ。〉(本書より)
 私の子供の頃の記憶。私の小さな村にも小さな神社があった。近村の神社の禰宜さんがわが村の神社の禰宜さんの代理をやっていた。だから、神社はいつも無人で禰宜さんはいないため、村の選ばれた人が神社の世話役をしていた。神社のちょっとした行事があった時など、禰宜さん役を務めた。だから祝詞などもやってすませた。ある時、祝詞もかなりすすんだ所で、いきなり大声を発した。「ワッこれは大変なことをしてしまった。神さま、申しわけ御座いません。間違えました。ここに、つつしんで、おわび申しあげます。今までのは一応なかったことにしてください。あらためて、やりなおしますから、どーぞ、ごかんべんください」と、いって、また祝詞をはじめた。そこに座っていた村の有志たちは、「みんな、何をいっているのかわからないから、そんな声をだして神さまにあやまらなくてもいいのに……」と、思った。ソロバンでいう、パチパチはじいて終わると、「エー御破算で願いましては……」と、いって始まるのに似ている。いきなり空とか無にしてしまう、いさぎよさというか無責任さというか。
 〈昔、映画やテレビのドラマで、頑固者の父親が、子供どもの振る舞いに対して突然怒り出し、ちゃぶ台をひっくり返してしまうようなシーンが出てきたが、空の思想を説くということは、それに近いところである。それまで信じてきたことがすべて一挙覆されてしまうからだ。〉(本書より)
 「般若心経」とは、ちゃぶ台のひっくり返しのことかと思うと、そこで食事をしていた家族のものはたまったものではあるまい。いい気分になるのは、ひっくり返した親父ひとりだけである。昔はそんな親父もいただろうが、今の時代はどーだろうか。そんなことをしようものなら、その場で家族全員に外へけ飛ばされてしまうだろう。と、いうことは、今はもう「般若心経」のマネごともできないということか。なんとも情けない時代になってしまったものだ。もちろん親父にとってはの話だ。今や「般若心経」も、絵空ごとの意味を持つお経か。ちゃぶ台をひっくり返したかったら家族のものがいないところで、ひとり食事しながら、ひっくり返せばいいだろう。なんとも淋しい「般若心経」だ。







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