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評者◆添田馨
歴史の還流に向きあう④ 暗黒の“安倍時代”を生きる(その1)
No.3251 ・ 2016年04月16日




■抑圧する者はじつは抑圧された者である。何故いま、憲法改正論議なのか――この疑問に思いをめぐらす時、精神分析のこの定式がなぜか思い出されたのだ。
 政権内でそれを本気で強行しようとしているのは、恐らく、たった一人の人間である。憲法を、いまここで全面的に改正しなければならぬほど切迫した具体的理由は、どこにも見当たらない。にもかかわらず、自分の在任中にそれを成し遂げたいという。自分の在任中に……? なるほど、つまりそれは個人的な願望というわけか。憲法とは国の根幹だ。改憲とはその根幹を動かすことだ。あなたが在任中であるかどうかなど、一体なんの関係があるというのか。歴史の還流がここにも陰々と渦巻いている姿を、私は見る思いがしている。
 わが国は一九四五年の敗戦で、占領(被征服)という大きな抑圧を味わった。だが、それは同時に戦争という死の恐怖からの解放でもあった。憲法第九条は、日本国家によるその永続化を保証したものだ。戦争を遂行した者たちの一部には、敗戦に伴う抑圧がそのまま持ち越されたかもしれぬ。しかし現在の改憲論議の根底にあるのは、実はこうしたトラディショナルな構造ばかりではない。
 現在の改憲発議の正当化の根拠として、中国の軍事的脅威や北朝鮮の核の恐怖があるなどという戯言を、まず私は信じていない。改憲を声高に叫んでいる人間は、恐らく、生涯を通じて自分に抑圧を刻みつけた者への私的な復讐を、国民全体を抑圧する機構に転化することで果たそうとしているに過ぎぬ。憲法改正とは、それを政策言語にただ翻訳しただけのものだ。普遍的立法の原理として妥当するような格率(カント)など、そこには欠片もない。
 政治権力がその本来の存立理由を見失い、ただ自らの延命のみを自己目的化するに至った時、国民への抑圧への意思は、言論弾圧や情報統制や監視強化などのかたちで容易に全体化する。まぎれもなく“暗黒の安倍時代”を、私たちはいま生きている。
――つづく







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