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評者◆高坂浩一(堀江良文堂書店松戸店)
大人の成長小説
不惑のスクラム
安藤祐介
No.3249 ・ 2016年04月02日




■40歳も半ばを過ぎると体力の衰えを感じることが多々ある。ダンボールいっぱいに詰まった本や雑誌を運ぶ機会の多い書店員の職業病ともいえる腰痛に悩まされる頻度は、若いころと比べると格段に増え、お酒を飲み過ぎた翌日の回復力の低下、お酒の席で健康診断の数値の話で盛り上がったり、一足先に老眼になった人の苦労話なんかも聞くようになったなぁ。
 今回紹介する『不惑のスクラム』は、そういう世代に特に読んで欲しい一冊です。
 死に場所を求めて彷徨っていた丸川亮平が河川敷に茂るすすきの原を見つけ歩を進めていると、足下にラグビーボールが転がってくる。それを追ってきた老人に半ば強引に練習に誘われたことをきっかけに、40歳以上の選手たちによる草ラグビーチーム「大江戸ヤンチャーズ」に入ることになる。高校時代にラグビーをやっていた丸川は、年齢も社会的立場もバラバラなヤンチャーズの面々と泥まみれになりながらラグビーをやることで「生きたい」と思えるようになっていく。
 グラウンドでの過酷な練習、上達しない技術、勝てない試合、仲間の死、勝ちへの執着からこじれる人間関係等々、ヤンチャーズで過ごす週末の姿が描かれる一方、他者を落とし入れることで自分を大きく見せたいモンスター社員の部下を抱え、プライベートでは妻に逃げられ男手ひとつで娘を育てる者、上司の誘いでラグビーを始めたことで茶坊主と社内で陰口を叩かれる者、管理職になったものの現場に戻りたいという思いに苦悩する者など、平日の働く姿をきっちり書き込んでいるところが本書の魅力になっている。不器用で泥くさいところに、同世代のサラリーマンは親近感を抱くのではないかと思う。
 グラウンドを出ればお互いの職業や境遇に干渉しない関係であったヤンチャーズのメンバーだったが、丸川が過去に起こしてしまった事件を知ったことで丸川を助けようと思う者と、ヤンチャーズを辞めてもらおうとする者に分かれてしまう。それによってグラウンドの外でも話し合う機会が増え、関係性が徐々に変化していく。否定派を悪役に仕立てないで描いているところは好感が持てる。そして、関係性に変化があってもグラウンド内ではラグビー、そしてチームへの愛情で何とかまとまるところもよい。
 さらに、偶然が重なって丸川自身に思いがけない再会が齎されるのだが、ここで私の涙腺は決壊してしまった。恐らく中年男性読者は私同様、涙することになるだろう。
 死に場所探しという絶望から始まり、ラグビーを通じて希望を見出すまでを描き、「生きろよ」というメッセージを真っ直ぐに胸に響かせてくれる本書は、苦しい時間が続いたあとは攻守が逆転するターンオーバーが待っているはずという希望と共に、中年男性の枯れていた涙を呼び戻すこと間違いなしの大人の成長小説になっている。







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