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評者◆たかとう匡子
戦争体験世代と体験しない世代との衝突(「現代短歌」)――全部で63編、百号記念の「掌編小説特集」(「全作家」)、土着の言葉を使って地方を浮き彫りにする定道明の小説(「青磁」)
No.3246 ・ 2016年03月12日




■今月に限って言えば特集号が多い。一方では同人誌の衰退も言われているなかで、なぜ特集号か。おそらく昨年の戦後70年があったからではないか。ひと口に70年というけれども、戦前から戦後があり、被爆体験、高度経済成長、バブル、そして今は高齢化社会へとめまぐるしい変化があり、そこで節目をちゃんと付けておく、という意味もあろう。戦後70年という節目だけに、未来に送りたいというメッセージが特集にはこめられていると思う。
 総合短歌雑誌「現代短歌」(現代短歌社)二月号は「八十歳の歌人」を特集。八十代の歌人の作品にコメントを添え書きにして掲載し、さらに八十代の歌人からみた若手歌人の作品、若手歌人からみた八十代の歌人の作品の評論を組む。戦後80年となると、十年後にはこの八十代は殆どいないだろう。これは見方を変えれば戦争体験世代と体験しない世代とを衝突させるということで、私はそこを面白く読んだ。こういう組み方はすでに歴史過程において絶えずあった話だが、こんなふうに個に即して意図的にやるのは賛成だ。世代を超えて共存していくためにもこういう地味な努力を手放してはいけないだろう。そのうえで、村永大和「口語短歌と詩が交わる話」の、生活問題を啄木に固執するのは面白いが、今一歩表現論についての展開を期待したいと思った。詩でも口語自由詩というのは萩原朔太郎以来の問題であって、文語調は今の現代詩にはないけれども、それでいいかという課題はリズムや調べの問題をふくめて残る。日々の生活に密着しながら、その生活をどう表現するかが大事。
 「全作家」第100号(全作家協会)は百号記念として「掌編小説特集」を組む。昭和51年の創刊だから、今号で39年の歳月を重ねたことになる。中村春海の「西瓜」は兄弟ふたりで、たかが西瓜を食べるだけの話だが、職場でQ2ダイヤル使用の犯人だというぬれぎぬをきせられた弟がそのことを兄に言うと、兄が「赤は魔除の意味があるから、この西瓜を食べれば、ぬれぎぬのような災厄を消除してくれるよ」とオチがつく。またほかにも類ちゑ子「シャワー」などそれぞれ興味ぶかかったが、全部で63編、読み過ごしもあるが、こういう特集の難しさと楽しさを感じた。
 「北奥気圏」第11号(北奥舎)は「寺山修司生誕八〇年」を特集する。地元の青森から、寺山修司の身近にいたことで、それぞれの思い出や記憶が生々しい実感で語られていて面白く読んだ。しかし寺山修司といえば日本中にひびいている人であり、文学史上の大きな展望の中で、なぜ価値があるか、郷土的視点に終わらせないでさらに組んでもらえればと期待したい。
 「俳句空間 豈」第58号(豈の会)は創刊35周年「安井浩司評論特集」号。江田浩司「俳句形式のアポリア――その表出と超克」に注目した。私自身、短歌と俳句の問題についてあまり意識したことはなかったが、若き日の寺山修司を媒介にして自分たちの創作上の自己批判をやっているその過程が面白かった。ここでは詳細には書けないが、普段から、短歌と俳句、俳句と口語自由律、すべて相互交流していかなければならないと、考えるきっかけを与えてもらい、勉強になった。
 詩では「潮流詩派」第244号(潮流詩派の会)が特集「進」を組む。そのなかで清水薫「伏見川」に興味をもった。番の鮭が遡上してくるのをみて「遠くなったふるさと/別れを告げたつもりでいたが/鮭に後ろを押されたと言い聞かせて/帰ってみようか/母なる国に」と歌う。ここでは「ふるさと」を「母なる国」というが、今やそう歌えるふるさとという概念はもうない。今日的ふるさととは何かという問いかけが必要だと思った。
 「青磁」第35号(青磁の会)の定道明「続杉堂通信」は徹底的にふるさとを書く。定道明は福井県人で小説を書き、中野重治の研究者でもあるが、地方とふるさとはイコールにはならなくなったのでふるさとというネーミングは使わず土着の言葉を使って地方を浮き彫りにする。これは私小説のように見えるが、稀にみる小説で、抜き差しならぬ地方の問題が大胆に、克明に描かれている。「我が家には石が三個、灯籠が三基、石塔が一基あります。石はいずれも川石で、一つは仏石、その側にねまり石、少し離れて座り石があります。石の命名は私です」と、淡々とした語り口で語られる。それらの石は古墳から持ってきたもので、石棺やら石棺の附属品、ねまり石は石棺の蓋だ。ともかくその古墳の山は先祖代々の所有だったといい、持ち山のなかに古墳があるという地主の、徹底した福井の土着民だが、都会では考えられないような、夜中の二時や三時に起きての暮らしや、畑仕事、人と人との付き合いなど、小話で重ねながら語られていて引き込まれた。
 「じゅん文学」第86号(じゅん文学の会)の猿渡由美子「幽明境」は年取った女の幻想性が面白かった。よくあるありふれた話ではあるが、外に女性をつくって出ていった夫が、その女性に死に別れて、ふらっと帰ってくる。別れたときは不幸だが、年月を経て出会ってみれば不幸とは思わない女性独特の心理がうまく出ていて、得難い作品だと思った。     
(詩人)







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