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評者◆秋竜山
よくぞ寒ブリである、の巻
No.3246 ・ 2016年03月12日




■ブリを描いたら、「カツオですか?」「マグロですか?」。これがブリに見えないのかなァ……。まあ、なにに見えようが、これでいいとするか。自分ではブリのつもりで描いたんだから。そして、目の白眼を黄色にしたら、まさしくブリになった。目のまわりのふちに黒くクマをいれたら、誰がなんといおうとブリである。ブリの顔つきは、おそろしくて怖いギョウソウをしている。そんなこととは関係なく、ブリのサシミはおいしい!! 今の季節では他の魚にはこれ以上のおいしさはない。よくぞ寒ブリである。佐野雅昭『日本人が知らない漁業の大問題』(新潮新書・本体七〇〇円)では、ブリについて、それも養殖のブリである。養殖のブリもおいしい。天然ものとちっともかわりがない。私は、その昔、寒ブリ漁を主とする定置網漁業で働いたことがあった。社会人の初仕事が漁師であった。漫画家になりたての頃、ある雑誌の電話インタビューで、肩書きを、元漁師です!! と、答えると、雑誌に、元理容師となっていた。私は漁師といったのに、理容師と聞えたのだろう。どっちでもいいや!! と、いう気分で、そのままにした。それ以来、漁師という時は、必ず魚をとる漁師ですからネ!! と、いうことにした。私の漁師は養殖もののブリではなく、天然もののブリである。
 〈ブリ類養殖とマダイ養殖の平均的な経営状況(養殖収入から養殖支出を差し引いたもの)を示しています。ブリ類では二〇〇三年から二〇一二年の一〇年間のうち五回が赤字、特に二〇〇八年は一〇〇〇万円を超える赤字となっています。(略)一〇年間の平均ではブリ類が二六万円の黒字になりますが、その水準はかなり低いものです。(略)現在の養殖はとても安定的に利益を生み出せる産業ではありません。現実に、廃業も相次いでいます。では、なぜこうなるのか。それは、養殖の対象となる「価格が高い」はずの高級魚が、養殖が発展すればするほど「価格が安い」大衆魚になるからです。養殖魚がずっと高級魚のままなら、回転寿司では食べられません。〉(本書より)
 高級魚を大衆魚にしてしまうと養殖産業はやっていけないということである。価格の下落は養殖経営を苦しいものにしてしまう。人情としては安いブリを食べたい。昔、寒ブリの定置網漁業で漁師として(漁師といっても、なにもできない毛のはえた程度の若い衆であったけど)働いていた頃、あの頃は、沖の定置網にいっぺんに一万五千匹という大漁があった。後にも先にも私はそんな大漁を味わったことはない。網に入ったブリは、漁船にあげる時、カギを使うとキズものになるといって、一匹ずつ手で船にあげたのであった。つまりは一万五千匹のブリとなると、一万五千回ブリをかわるがわる船にあげる作業をしたことになる。考えただけで気が遠くなってしまうし、逃げ出したくなってしまう。五、六十人程の漁師であるから一人当たり何匹のブリを網に追いつめて一匹ずつ引っぱりあげたことになるのだろうか。そんな原始的な作業はまるで自分が原始人になったようなものでもある。記憶にあるのは当時一匹のブリの値段が千円ぐらいだったと思う。今、一匹海からあげるブリの値段はいくらぐらいしているだろうか。計算したからといって、どーなるものでもない。







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