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評者◆添田馨
歴史の還流に向きあう③――新しい物語を生みだす“源泉”
No.3246 ・ 2016年03月12日




■最近、現在の社会状況が戦前のそれに似てきたという主旨のことを、さまざまな言説の端々で耳にするようになった。安倍政権になってから、閣僚の発言や政策方針などのベクトルが、にわかに戦前回帰的な色調を帯びてきているとは、私も強く感じるところである。
 だが、これに対して、もうひとつ明確に対抗する別の動きが見られるのも、やはり事実である。私はあるところで、2015年の安保法制反対運動と1960年の安保反対闘争が、大衆のメンタリティの部分で通底していると指摘したが、歴史のそうした既視の感覚を指して“還流”と表現してきた。
 これと同様の感覚について、瀬尾育生も別のかたちで言及している。筆者の参加する同人雑誌の座談会で、瀬尾は学生集団SEALDsの出現をこう総括した。「支持するしない以前に、こういう政治状況でああいう運動がもしなかったとしたら、相当おかしいじゃないですか。ないことは異常なことだし、危険なことです。だから絶対あるべきだ――という条件のなかで、彼らはたいへん健闘した、ということだと思います。」(*)
 こうした断言を支えているのも、間違いなく還流的な思考であることを申し述べておきたい。1960年に起きた大規模な安保反対運動、その経験的な記憶に支えられて、2015年の運動は、瀬尾の歴史意識のなかで、このように必然化されたのだと考えるべきだろう。
 私は昨夏の国会前の集会で、SEALDsの奥田愛基がある新聞投書を読みあげるのを聴いた。それは元特攻隊員だった高齢の男性からのもので、安保法制に反対して立ち上がった彼らを、特攻攻撃で若くして死んでいったかつての仲間たちの生まれ変わりだとする内容だった。私たちは、この男性のなかでも歴史が間違いなく還流していたことを知るのである。
 還流は、こうして新しい別の物語の源泉を生みだしていく。歴史形成の主体は記録された事実ではなく、還流する個々の記憶の生きた集合なのだ。

(*)「スタンザ」11号 連続討議「私たちはどんな時代を生きているのか」より







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