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評者◆秋竜山
人類よナマコになれ、の巻
No.3245 ・ 2016年03月05日




■本川達雄『人間にとって寿命とはなにか』(角川新書、本体八〇〇円)では、まず最初はナマコの話から。〈世界に約1500種、日本には約200種のナマコがいます。〉いったい、どこの海にナマコがそんなにいるのか。それに、ナマコのことなど忘れてしまっていた。私は海辺で生まれ育ったのであったから、ナマコという生き物をまったく知らなかったということはなかった。でも、ナマコを食べるということは大人になってからであって、どこかへ旅行した折であり、子供の頃は見むきもしなかった。ナマコはヒトデとかウニなどと同じグループに属しているというが、ウニなどは今にしてみれば、あの頃食べる習慣があれば、夢中になって食べたであろうが、残念ながら、ウニなんてものは見むきもしなかった。ナマコもまったく同じだ。まことにもったいない若い頃をすごしたものだ。子供の頃は夏など浜辺の浅い海の中にナマコやらウニがゴッソリいた。もぐっては指で突っついたりして遊んだものだった。村の漁師たちも、ナマコやウニを食べるというようなことはしなかった。昔からそういう習慣だったからだろう。
 〈ナマコは見るからに変な動物です。目や頭がどこかわからず、動物としては大変おかしいし、あまり動かない「動」物なのだから、自己矛盾的なんとなく存在として滑稽なものです。〉(本書より)
 ウニやヒトデと同じだがナマコがなぜ動かないのであるのか、「動きたくないから」なんてのは答えにはならないだろう。彼らにしてみれば、動こうと動くまいと大きなお世話だほっといてくれ!! と、いうことだろうか。陸の植物と同じだ。動かないからといって気の毒に思ったりするのは人間のおせっかいというものかしら。ナマコには脳がないという。これも、なぜなのかわからない。
 〈自己矛盾的滑稽さは、俳句が好んで取り上げるものです。日本人はナマコを食べる民族であり、古事記にもナマコが出てくるくらいですから、ナマコはわれわれになじみのある動物で、ナマコを詠んだ句もたくさんあります(略)。「ころリンと海鼠転がりをりし浜青天」(髙澤良一)……ころりんと石みたいに存在しています。
「瓦とも石ともさては海鼠かな」(来山)……何だか石みたいなのです。そして目がどこか分からないから、
「そこここと見れど目のなき海鼠かな」(炭太祇)目がないのですから、どちらが頭かお尻か分かりません。どちらが口だというので、「どちくち」とナマコをよぶ地方もあります。結局、
「尾頭の心もとなき海鼠かな」(去来)となります。〉(本書より)
 見るからにナマコはグロテスク。
 〈「吾輩は猫である」には、始めて海鼠を食い出せる人は其胆力に於て敬すべく」と書いてあります。(略)ナマコの寿命は3~4年ですが、それを現代人の時間に換算すれば1日程度なのです。〉(本書より)
 〈世の中をかしこくくらす海鼠哉(正岡子規)〉(本書より)
 もしかすると、みんなナマコになりたがっているのだろうか。いっそのこと人類はナマコになってしまえばいいのだ。







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