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評者◆堀江奈津子(くまざわ書店阿久比店)
ヘンタイゆえに天才!?
ヘンタイ美術館
山田五郎・こやま淳子
No.3243 ・ 2016年02月20日




■「美術館巡りが趣味」と話すと「じゃあ、一緒に行く時解説してよ」と言われることがあります。美術史をかじっていた者としては恥ずかしいのですが「予備知識を持たずに、何気なく目にした絵画に心奪われるのが楽しいでしょ」などと、もっともらしいことを言って逃げてしまいます。たいてい、言われるひとはあまり美術に関心がないことが多いので、まずは近くの美術館に足を運んでほしいという気持ちもあってなのですが。
 実際、美術作品の生まれた時代背景や作家の生い立ちを知っていると深く理解できることは間違いないでしょう。それをどう分かりやすくなおかつ興味を持ってもらえるように紹介するか、これが難しいことは美術の分野に限らず言えることではないでしょうか。
 『ヘンタイ美術館』は評論家山田五郎氏が館長、コピーライター(西洋美術史はズブのシロウト)のこやま淳子氏を聞き手の学芸員見習いとして企画されたトークイベントをまとめた本です。こやま氏が山田氏のトークの魅力に取りつかれてイベントを企画したとのことで、忠実に再現されたであろうお二人の掛け合いが大変面白い。うーん、実際参加してみたかった。
 この本では同時代に活躍した画家三人を挙げ、誰が一番ヘンタイだったか解説していきます。「芸術家なんてみんな変わり者でしょ?」なんて一言で終わらせてはもったいないほど、取り上げる12人の芸術家は様々なヘンタイ。あくまで変態と漢字表記にしない理由は山田氏のこだわりであるため、あえてここでは明らかにしないでおきます。
 ダ・ヴィンチやミケランジェロの男色は有名ですが(同じ比較に挙げられたリア充ラファエロは少し気の毒)、フランダースの犬で有名なルーベンスをぽちゃ好き、ドラクロワを中二病と超有名どころの芸術家たちが、どんどんヘンタイ暴露されていくわけです。まるでワイドショーを見ている感覚です。
 ルネサンス・バロック・新古典・ロマン・写実・印象派と有名な時代を紹介しているわけですが、三人ずつ比較していくことで、時代の流れまで分かりやすくなっています。
 例えば、「理想と現実」の項では市民革命と産業革命という二つの革命の中で芸術も変化していくところの解説から入ります。新古典主義で美術アカデミーの重鎮だったアングルはナポレオン政権下で肖像画家として活躍をし、そのアングルに毛嫌いされてアカデミーに落選し続けたロマン派ドラクロワは「民衆を導く自由の女神」で革命の波に乗り、写実主義クールベがアナーキストになっていく。芸術が市民に近くなっていく流れが読み取れます。しかし、そこはヘンタイ美術館。抑圧された中で長い背中を描くことに固執したアングル、ブルジョア出身でこじらせ系のドラクロワ、エロも思想も全開にしたクールベ。ここでさあ誰が一番ヘンタイか? となるわけです。ちなみにこの回は山田氏とこやま氏の意見が割れていましたが、私はこやま氏寄りの意見でした。
 あ、安心してください。きちんと名画の鑑賞ポイントもおさえています。それぞれの代表作の解説もきちんとされていますから「教科書で見たあの絵」の趣旨もばっちり理解できます。
 美術入門書というより雑学なつもりで読んでいただき「美術おもしろいかも」と思っていただけると思います。あ、でもデートで行った美術館で「この画家はどんなヘンタイだろう」と思いながら鑑賞するのはどうかと思いますが……。







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