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評者◆内堀弘
映画文献の古本屋の全記録――『一頁のなかの劇場』(中山信行)、前代未聞の総決算
No.3242 ・ 2016年02月13日




■某月某日。古本とか古本屋が、柔らかなイメージになってきた。それでも、流行のブックカフェに行列ができると聞けば驚く。寒空に並んででも、お気に入りの古本を片手にゆっくりお茶したい。この情熱は、いま何を支えているのか。
 七十年代から八十年代にかけて、古本屋の世界にも、よくわからない情熱が参入した。街場の古本屋が大いに日銭を稼いでいた時代に、そうじゃない古本屋を作りたい。駆け出しの若手がいきなり専門化を目指す。それも神田や本郷の古書店街でなく、郊外で好きなことをはじめたのだ。
 三河島の稲垣書店の中山信行もそうだった。ここは映画の古書で知られる。一九八二年から月刊誌『日本古書通信』に在庫目録を載せはじめた。一頁におよそ百点が並ぶ。ポスター、ブロマイド、チラシ、映画雑誌、文献、資料など各回ごとを特集形式とし、これに心血を注いだ。その第一回から百七回(二〇一三年)までの古書目録が一冊にまとまった。
 昨年末に刊行された『一頁のなかの劇場』は、この全百七回の古書目録を再録し、各回ごとに店主中山信行が寸評を添えている。この回の注文者は何人で、売り上げはいくら。このチラシには注文が何人重複し、この雑誌はどこの図書館が買ってくれた等々。好きほうだいをやってきた三十年の、まさに洗いざらいの記録だ。
 たとえば第三回(一九八三年)はATGのポスター特集で、このときの総掲載額が六十七万円。注文者は五名(一人は私だった)。総売上は二万六千円。『日本古書通信』への掲載料が三万。つまり六十七万円分の商品を三万円の経費をかけて掲載し二万六千円を売り上げた。経費も出ていない。感想は「ガックリきた」(そりゃそうだ)。こうした詳細な報告(というのか独白)が百七回続く。
 73回(一九九七年)の「新蒐雑誌特集」は百五〇万ほどが売れて「なんとか専門店になれたか」と感想がある。この言葉が出るのに十五年だから感慨は深い。
 私も小さな古本屋を続けながら、稲垣書店はいつも励みだった。誰がなんと言おうと、好きな古本屋で生きていくことはできる。矜持とか志とか、そういうややこしいことでない。基本のキがここにある。だから、それをはじめようという人には必読の一冊だ。だが、一九〇頁もあるのにこれは私家版非売品。そもそもクリック一つで本は手に入らない。まずこれを見つけ出すのが最初の関門のようだ。







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