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評者◆第16回 (番外編)
図書装備の心臓部・TRC新座ブックナリーの実態(前編)――図書館の注文に対する在庫ヒット率は96%に
No.3241 ・ 2016年02月06日




■年間7万6000点もの書籍が発行される昨今、多くの図書館には毎週平均約1400点の書籍が掲載された選書カタログ「週刊新刊全点案内」が届けられている。この膨大な数の新刊の中から図書館で司書が選ぶ書籍は、どのような経路を経て、普段目にする“図書”に装備されて図書館に入荷するのか。それを探るために、図書館流通センター(TRC)の取引先・公共図書館に納品される書籍の8割を装備・出荷しているTRCの物流拠点・新座ブックナリーを訪問した。大量に納品される図書の入荷・検品、在庫から図書館用図書として装備・出荷されるまでの一連の流れを、TRCの物流管理部を管掌する関口弘氏と松本百充部長に解説してもらった。

■在庫と装備を一体化

 まずはTRCがどのような体制で図書館向けの書籍を在庫しているのか、倉庫の概要をみてみたい。JR武蔵野線新座駅(埼玉県新座市)から約1キロ離れた場所に、TRCの物流の心臓部にあたる新座ブックナリー(延べ床面積3923坪)がある。主に一般書9万7983点・115万1794冊(1月18日現在)を在庫する倉庫でありながら、同時に図書を図書館向けに装備する作業所も併設。「商品の在庫と装備を一体化させる」ことをコンセプトに2009年に稼働した。
 同ブックナリーから国道254号線を東南に車で5分走った場所には、児童書を中心に3万1597点・60万9337冊を在庫する(1月18日現在)児童書センター(4階建・延べ床面積900坪)がある。注文を受けた児童書はここから新座ブックナリーに運ばれ、図書として装備。一般書などと荷合わせして各図書館に出荷される。
 これら2つの倉庫がTRCの物流拠点である。その最大収容冊数は合計200万冊で、現在在庫している書籍は12万9580点・176万1131冊にのぼる(1月18日現在)。「一般的に市場に流通する新刊・既刊書籍の点数は60万~70万点といわれているが、ここで在庫しているのは約13万点。少なく感じるかもしれないが、図書館が必要とする書籍は、ほぼ在庫している」(関口氏)。
 その証左が、いわゆる図書館の注文に対する在庫ヒット率だ。稼働時には93%だったのが、現在は95~96%にまで精度を高めた。「いまは98%を目指している。在庫ヒット率を上げるには、文庫・新書の在庫を増やす必要がある。図書館では耐久性の問題もあり、ハードカバーでの購入がメーンのため、新座でもそれに合わせた在庫をしている。だが、最近は書き下ろしの文庫が増えており、その対応がこれからの課題となっている」(同)。

■在庫品切れ率は1~1・5%

 2つの倉庫に在庫している商品は、TRC仕入部が全ジャンルの商品を出版社からの資料や過去の販売データをもとに吟味して、発売3週間前に適正部数を注文したものだ。その品切れ率は1~1・5%程度という正確さ。発売後にテレビで突如紹介されて話題になる書籍などがそのレアケースに当たるという。出版社への返品率は10~12%で、出版界で言われる約40%の返品率に比べて格段に少ないのも図書館流通センターの特徴である。
 これら在庫商品を、図書館からTRCへの注文方法で区分すると、主に3つに分けられる。ひとつは「新刊急行ベル」。これは発売後に入手困難が予想される書籍を出版社から一定部数買い切り、図書館に配送する仕組み。「新刊情報による選書委員会」(新刊選書委員会)の意見をもとに選書した書籍である。ふたつ目の「ストック・ブックス」は、ベル商品以外で新刊選書委員会が推薦する書籍やベルグループのジャンルにない書籍などを対象としている。「週刊新刊全点案内」に掲載された商品群は掲載号発行日から10週間は在庫されることになっている。同誌に掲載されている45%の商品がこれに当たる。最後の「新継続」は全集や年鑑、白書、シリーズといった継続的に発売される商品を次巻以降も自動的に配送する仕組みである。これら図書館の発注を支えているのが新座ブックナリーに在庫されている商品なのである。
 新座ブックナリーのもう一つの顔である装備機能については、1日最大で5万7000冊、年間で1425万冊の装備を可能とする体制を取っている。2014年度の装備納品実績は760万冊、TRCが取引している公共図書館に納品される950万冊の8割を、おもに新座で加工している計算になる(一部は協力工場で装備)。

■新刊展示に合わせ最短5日で出荷

 続いて、TRCに書籍を注文すると、どのような工程を経て図書館に出荷されるのか。
 まず、1日目(月曜日)。図書館から図書館専用ネットサービス「TOOLi(ツールアイ)」を通じて、午後1時までに受けた注文は、当日中に在庫データと照合。在庫のないものは取次に発注するなど、翌朝5時までに受注処理をする。2日目(火曜日)は在庫図書を倉庫からピッキングするのと同時に、注文のあった図書館に配送される新刊急行ベルや新継続の商品とともに荷合わせして図書装備の準備。3日目(水曜日)は、背ラベルやバーコードなどの装着と同時に納品データを作成する。4日目(木曜日)は手作業によるフィルムコーティング。5日目(金曜日)が装備された図書の最終検品を行い宅配便で図書館に出荷し、6日目(土曜日)には図書館に着荷。図書館で受け入れ作業を行い、午後には図書館で新刊が貸出可能となる――という流れだ。
 在庫している書籍は営業日内であれば5日で図書館に出荷される体制を整備している。この工程をベースに、各図書館の新刊展示日に合わせて装備や出荷のタイミングを調整している。「例えば、毎週土曜日の午後に新刊展示をしている図書館は月曜日に注文を受け、水曜日に装備し、土曜日の午前中に届ける。図書館の要望を受けた結果、曜日によって装備などの業量が偏ってしまうのが、今抱えている問題ではある」(同)と話す。
 これら一連の流れを実際に新座ブックナリー内での作業工程に当てはめてみたい。まず、新座ブックナリーはA~Cの3棟に分かれている。A棟(4階・延べ床面積2121坪)は装備やフィルムコーティング、出荷梱包作業を行っている。B棟(3階・906坪)は一般書やベル商品、ベストセラーを在庫、C棟(3階・896坪)は文庫・一般書を在庫するとともに、取次からの入荷・検品も行っている。この3棟は図1のとおり、入荷↓在庫↓装備↓出荷までを行う各棟の1階から3階までをベルトコンベアでつなげている。
 流れとしては、取次から運ばれてきた書籍をC棟1階で入荷・検品後に、商品特性に応じてC棟やB棟に在庫する。在庫した商品は各フロアで図書館の注文に応じて商品をピックアップして、各図書館宛てのバケットに詰め込み、ベルトコンベアに流す。それらがA棟3階にある装備の作業場に自動的に運ばれてくる。装備作業が終われば、A棟2階でフィルムコーティング。その後はA棟1階の一時保管場所で他の荷物が集まるのを待機。いち図書館の全荷物が揃い次第、自動的に出荷・梱包作業場にバケットが流れていくという段取りだ。
 同倉庫の稼働時間は午前7時~午後11時の14時間。入荷は午前8時、出荷は午前10時から午後1時がピークとなる。書籍のピックアップは午後6時からスタートするなど、現場によって作業時間は異なる。そこで働くのは、400~450人のパート従業員で、中には勤続10年という熟練者もいる。同倉庫でも高速ブックコーティング機の導入などの機械化も進んでいるが、背ラベル・バーコードの貼付やフィルムコーティングは基本的に熟練者による手作業で今も行われている。
 後編では、入荷から出荷までの具体的な作業を追いながら、職人技と言われる図書装備の実態をレポートする。
(つづく)







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