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評者◆小嵐九八郎
追悼 野坂昭如――行為より、行為の一つのブンガクの方が迫るものがあると教えてくれた
No.3240 ・ 2016年01月30日




■ノサカこと野坂昭如氏が去年十二月、誤嚥性肺炎から心不全で亡くなられた。
 俺は一九四四年生まれだが、たぶん、その後の団塊の世代にとっても、敗戦を眼で鼻で胃袋にて経た焼け跡闇市派や〝外地〟からの引揚げ派の世代の野坂昭如氏や五木寛之氏には何かしら畏怖を持たざるを得ない。
 野坂昭如氏の死に関する新聞や週刊誌の記事をスクラップしていて、かの、読めば泣くしかなく、やはり国家による戦争は戦闘兵のみならず、普通の人人、とりわけ子供に悲惨を招くことを教える名作『火垂るの墓』についてはきちんと評価しているが、当方にとっての大名作の『エロ事師たち』に関しては編集者の松田哲夫さんが「猥雑でいとおしい人間の姿」、ジャーナリストの田原総一朗さんが「デビュー作『エロ事師たち』に惹きつけられた」(以上、「東京新聞」)、「享楽と猥雑とユーモアの中に社会批評を盛り込んだ」(「朝日新聞」)とあまり踏み込んでいない。ま、これから、いろいろ文芸誌などで記されるのだろう。楽しみそのもの。
 我田引水で言えば、ついに底辺を這いずったままの俺なのに決定的なブンガク、小説は『エロ事師たち』だった。一九七〇年、雑兵の一人として拘置所の代わりに中野刑務所に入れられていた折、世間のことも知らねばならぬと、色眼鏡をかけて女を口説く怪しからんやつの小説もと、嫌嫌ながら読み始めた。
 仰天、という言葉はこのためにあった。
 ブンガクは革命の一手段、しかも、役に立たぬものばっかりの綺麗ごとの概念が、吹っ飛ばされた。げびていて、その上、必死な中身。文体は、主語を探すのがしんどくなるけど、そんなのはどうでもいい、内臓が捩れてるうちに河内弁の三味線に酔うような凄み。そもそも、エロ事で人人に懸命に尽くすほどに不能となりゆく「スブやん」のアンビバレンツと性へのニヒリズムに、もしや革命運動の暗示ではないかとすら思わせた――行為より、行為の一つのブンガクの方が迫るものがあると教えてくれたのに、なお、一五年ほど学生運動の延長戦をやってしまう俺は、ダメそのもので。
 「スポニチ」によると、ノサカは密葬の棺にサングラス、鉛筆、缶ピースなど入れられ、自身の『黒の舟唄』が流れる中、荼毘に付されました。







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