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評者◆秋竜山
落語とマンガの笑いの違い、の巻
No.3239 ・ 2016年01月23日
■小佐田定雄『米朝らくごの舞台裏』(ちくま新書、本体八六〇円)では、落語「つる」について。私が「つる」を初めて聞いたのはラジオ時代であった。テレビなどまだない時代であったから、動く落語など見たこともなく、新聞とか雑誌の写真によって、の舞台の落語家であった。ラジオ放送では落語番組がいっぱいあった。その分、よく聞いた。そして、よく大笑いした。耳からの声だけの落語でよくあれだけ笑ったと思うと不思議でならない。と、いうのも、ラジオからテレビになってブラウン管の落語になると、さっぱり観なくなってしまったということである。そして、ラジオの時のほうが面白かったなどと思ったりした。そして、落語における笑いは耳の穴の中にだけ飛び込んでくるほうがいいのか? なんて、思ったりもした。本書で落語「つる」を解説している。
〈「つる」という鳥の名は、オスがツーッと飛んで来て浜辺の松にポイッと止まり、そのあと、メスがルーッと飛んできてから「つる」となった……と命名の由来を甚兵衛さんから教えてもらった男、早速、友達に新知識を披露して行く。しかし、「ツルーッと飛んで来て」と言ってしまったために失敗。改めて教えてもらってリベンジにやって来るのだが、今度は「ツーッと飛んで来て、浜辺の松にルッと止まった」と言ってしまう。メスの番になっても言うことがないので往生していると、友だちが「おい。メスはどないしてんか?」とたずねるので「うーん。メスはだまーって飛んで来た」〉(本書より) ラジオの声だけでも、子供には大人の話し声を聞いているようであって、その内容がじゅうぶんわかるから笑ったのである。当時、私の生家の前に大きな磯松があり、その枝に白サギがよく飛んできて止まって羽根を休めていた。友達にその白サギのことを「シラサーと飛んで来て松の枝に「ギ」と止まった。だから、白サギというんだ!!」なんて、いったりした。友達の「バカ、何いってんだ」の、ひとことでこの話は終わってしまったのであった。もちろん友だちは、「つる」のパロディであることなどしらなかった。しっていたからといって、パロディになるわけがない。パロディにならないから笑いである、なんて、やっぱり子供の私の早トチリであっただろう。 〈米朝師の師匠である四代目米團治師がよく演じていたネタは、(略)中でも「つる」はなにかと言うとやりたがって、常々、「この噺は落語のエッセンスやで、短い中に話術のほとんどすべてのテクニックがそろっている。説いて聞かせる。軽く流す、かぶせる、はずす、戸惑う、運ぶ、強く押し出す、気を変える…。これにないのは地の文だけや」と評していた。それだけに、弟子の米朝師も勉強会で若手が演じるとかなり細かい点までチェックを入れられていた。〉(本書より) 私は自分の職業柄、この笑いをマンガにした時、どのような表現にもっていくか考えてしまう。マンガの場合、声がない。無声劇である。落語とマンガの笑いの違いである。マンガでオスもだまって飛んで来たでは話にならないだろう。 |
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