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評者◆殿島三紀
アウシュヴィッツに消えた作者がいま蘇る――ソウル・ディブ監督『フランス組曲』
No.3237 ・ 2016年01月09日
■『アンジェリカの微笑み』『ひつじ村の兄弟』『消えた声が、その名を呼ぶ』などを観た。
『アンジェリカの微笑み』。2015年4月、106歳で永眠した巨匠マノエル・ド・オリヴェイラが101歳の時に撮った作品。脚本は既に1952年に書かれていた。半世紀以上をかけて熟成させたポートワインのような映画だ。 『ひつじ村の兄弟』。グリームル・ハゥコーナルソン監督。こちらは1977年生まれの新鋭である。アイスランドが舞台で40年間仲違いしている老兄弟と羊たちの物語。荒々しい自然を背景にした現代のサーガとでもいうべき作品。 『消えた声が、その名を呼ぶ』。ベルリン、カンヌ、ヴェネチア世界三大国際映画祭の全てで主要賞を受賞したトルコ移民2世、ファティ・アキン監督の最新作である。100万人を超えるアルメニア人がオスマン帝国領内で虐殺されたという事件から派生する物語だ。今なおアルメニア政府とトルコ政府の見解が一致していないという知られざる歴史を若き巨匠ファティ・アキンが抉り出した。マーティン・スコセッシ、ロマン・ポランスキーらも協力し、7年の歳月をかけて完成した大作。 今回紹介するのは『フランス組曲』。原作者の運命を想うと胸が痛い。本作の背後には人智の及ばない神秘な存在を想像せざるを得ない。原作はイレーヌ・ネミロフスキー。1903年キエフ生まれ。裕福なユダヤ人銀行家の娘だ。ロシア革命を逃れ、一家でフランスに移住。1929年に発表した長編第1作「ダヴィッド・ゴルデル」が映画化され、以後数々の作品を著し、一躍ベストセラー作家になった。だが、作家として絶頂期にあった39年、第二次世界大戦が勃発、翌年フランスはドイツに降伏。彼女はユダヤ人ゆえ出版活動も禁じられる。42年7月フランス憲兵隊によって捕えられ、同年アウシュヴィッツで死去した。妻の救出を試みた夫も10月に捕えられ、死亡。2人の娘は逃亡の末、生き延び、母の形見のトランクを守り抜いた。そして、そこに入っていたのが本作の原稿だったのだ。原稿は二部に分かれ、本作は第2部に登場するリュシルを中心とするストーリーだ。ドイツ占領下のブルゴーニュの田舎町で、姑と共に出征した夫を待つ若い妻と魅惑的なドイツ将校との交流を描いている。 原作はナチス・ドイツ占領下で書かれた。映画は、出征中の夫の留守を守る若いフランス人妻と入隊前は作曲家だったというドイツ将校との切なく、熱情的な恋を描いている。ドイツ将校にもフランス人妻にもいずれも結婚後わずかな期間を過ごしただけの伴侶がいる。厳しい姑と共に家を守る若い妻。そこへ敵国の将校とはいえ、芸術を愛する美しく紳士的な男性がやってくる。お互いに魅かれるようになるのは時間の問題だった。だが、それは決してあってはならないこと。禁じられた恋である。人妻と将校の抑えた恋情が切ない。そう、『男と女』(1966、クロード・ルルーシュ監督)、あるいは『目撃者 刑事ジョン・ブック』(1985、ピーター・ウィアー監督)の男女のようなあの切々とした想いだ。抑えた想いの中にこそ、激しい感情は沸々とたぎるものである。やがて女はレジスタンスとして闘うためにパリに向かうのだが……。 本作を観ながらどうしても原作者イレーヌ・ネミロフスキーの生涯がかぶさってしまう。占領下、どんな想いで敵国将校との淡い恋情とレジスタンスに身を投じる女を描いたのか。その小説が作者の死後60年以上を経て出版され、映画にもなったことはいかなる運命の巡り合わせだろう。エンドロールに流れるのは娘たちが守り抜いた彼女の生原稿である。その文字は残された命を刻み込むように小さくびっしりと書かれていた。物語と現実の不思議な二重構造にめまいにも似た感覚を覚える。 (フリーライター) |
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