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評者◆内堀弘
こんな作家まで高くなる――ヤフオクに現れた明治の才女・大塚楠緒子
No.3237 ・ 2016年01月09日




■某月某日。原田知世が「月が綺麗ですね」と言うと、電話越しの男性が「夏目漱石はアイ・ラブ・ユーを、月が綺麗ですねと訳したんですよ」と応える。以前に視たドラマの一場面で、真偽はわからないが、いかにも漱石らしい逸話だと思った。
 明治の才女大塚楠緒子は三十代で夭折した。新刊書の世界ではとうに忘れられた名前だが、古書の世界ではまだまだ知名度は高い。この才女の写真を見ると、どことなく原田知世に似ている(と、私は思っていて、それほどに魅力的だ)。彼女は漱石の失恋相手といわれる。彼女が亡くなったとき漱石は「あるほどの菊投げ入れよ棺の中」と手向けの句を詠んだ。
 大塚楠緒子は短い生涯に二冊の著作を遺した。もう百年も昔の本だから見ることは少ない。それでも何年か前、その一冊の『露』(明治41年)のコンディションのいいものを手に入れ、15万円を付けると直ぐに売れてしまった。
 先日、ヤフオクを見ていたら、この『露』が出ていた。出品者は地方都市の老舗古書店で、その説明によれば旧家で大切にされてきた蔵書とあった。他にも明治大正期の文学書が多く出品していて、どれもとても状態がいい。
 私は二つのことに驚いた。一つは『露』がカバー付だったことだ。刊行されたその状態を留めているのは奇跡に近い。もう一つは、その奇跡的な本がヤフオクに出ていることだ。以前なら、これほどの逸品は東京(神田)で開かれる業者の入札会に出品されたはずだ。そこが一番高い値を付けたからだ。そうやって各地に眠っていた稀覯書は東京(神田)に集まった。
 オークション終了の三日ほど前、『露』の額はまだ2万円ほどだった。私は14万円を入札した。この中途半端な数字は、大塚楠緒子とはいえヤフオクだ。10万円も入れれば買えるだろうと甘く見たからだ。しかし、より高い額が入札されていると跳ね返された。覚悟のある額が入っているということだ。少しでも安く買おうとする場所に本当に良い物は集まらない。たまたま出ていたのではない。ここが一番高くなるから出ていたのだ。終了が近づくと20万を超え、更に競り上がっていった。 







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