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評者◆秋竜山
医者もなおせない病気、の巻
No.3236 ・ 2016年01月01日




■言葉の世界遺産登録をしたいくらいだ。「昔はよかった」と、いうのがある。「昔はよかった」ということは、今はよくないということになる。今もよい、昔もよかった、ということは存在しないだろうか。年をとると、誰でも使いたくなる。使いたくないと思っても無意識の内に口にしてしまう。年寄りの専売特許かと思っていたら、若い者でも使ったりするからギョッとさせられる。ついこの間、生まれたばかりの若者が、昔は……なんて口にすると、昔とはいったいどういう意味なのか聞いてみたくなる。昔の定義というものがあるのだろうか。「あの頃……」なんて言葉もあったりするが、「昔……」よりは昔ではないと思う。「俺たち若え頃は、こんなもんじゃなかった。今どきの若え奴らは……」と、続くが、これも年寄りの名セリフのようである。そんな昔があったとは、まったく信じられないような年寄りでも、口にしたりする。そんな時でも、おだやかに聞いてやるべきだろう。とにかく、老人天国であるから力の上でも老人の勝ちとなる。民主主義の多数決をおもんずる国家としては、老人の数からしてかなわないだろう。
 パオロ・マッツァリーノ『「昔はよかった」病』(新潮新書、本体七四〇円)という本。「昔はよかった」を病気としてとらえてしまったのが面白い。医者もなおせない病気である。なおせるというか口をつむらせることのできるのは女房ぐらいか。「あんた、いーかげんにしなさいよ。昔はよかった、よかったというけど、あんたの昔がいいわけないでしょ。聞きあきたというか、今度から、昔は悪かったといいなさいよ。まったく馬鹿の一つおぼえほど怖いものはないわ!!」。この女房のひとこと、こたえると思いきや、「バカヤロー、いってるのは俺ばかりではない。仲間はみんないってる。俺なんかいわないほうだぞ。アーそれにしても、昔はよかったなァ」。
 〈二一世紀の日本各地でいまもなお、日食の太鼓と同じくらい非科学的・前近代的な風習が公然と続けられているからです。日本ではその風習を一般的に「火の用心」と呼び慣わします。正確には「火の用心の夜回り」ですね。「火の用心」は本来、火災予防に対する心構えのことですから。でもまあ、年の瀬の平和な夜のしじまに拍子木の音がこだましますと、たいていの日本人は「火の用心やってるな」と思うのです。〉(本書より)
 読んでいくと、私はビックリしてしまった。その夜回りの現場の拍子木の音がうるさくて大変めいわくだというような内容になっている。私は今の拍子木やその叩いた時の音というものをしらないが、昔もそんなだったんだろうか。と、いうのは、先号で私は「火の用心」のことを書いている。それは、本書の昭和三十年代とかさなっている。三十年代前半、私は村の青年団に小若い衆として入団させられた。そして、「火の用心の夜回り」、私の村では「火のまわり」と、いっていた。冬の寒い、今夜は風があるなんて時は、青年団員は一晩中拍子木や石油の空カンにヒモをつけぶらさげてそれを棒切れでドンドコ叩いて村中を火の用心のために寝かせないぞという息ごみで、騒音をたてて回り歩いた。そういう時代もあったということだ。これを昔はよかったといえるかどーか。







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