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評者◆小嵐九八郎
西洋美術輸入前の日本の“美”の精神の華が確とある――梶よう子著『ヨイ豊』(本体一八〇〇円・講談社)
No.3236 ・ 2016年01月01日




■そもそも売れない娯楽作家の上に、時代の流れを読めずにおろおろとISのテロリズムを見やり、それに老いの惚けも加わり、電車に乗ると“優先席”はスマホを手に若い女がぎっしり鈴なりで上から覗くと小説を読んでることはなくゲームかメールばかり、どこかの国に連れて行かれた錯覚に陥る。
 それでも、若い頃から中年にかけて“遊び”過ぎたので老人になり貧乏で書くしかなく、小説、とりわけエンターテインメントは好きなのでついつい夜更しして読んでしまう。
 それで、手にしたのがタイトルはどうも分からないが『ヨイ豊』(梶よう子、講談社、税別1800円)だ。ふうむ、そう、浮世絵師の話か、それも、歌麿や写楽や北斎や広重という大物でなく、三代歌川豊国の名代を継ぐ争いかと読み進めた。
 が、ぎょっ、ぎょっなのであった。敢えて浮世絵のピークではなく、幕末と維新という江戸が東京となっていく激動期の、江戸の滅びの時代に設定しているのである。庶民の早く知りたく“憂き世を浮き世へ”の願いを役者と女の下絵で描き、彫師、摺師と共に錦絵として完成させ、版元の利害の下で、つまり、今でいうと出版社の利潤の計算の下で必死になった四代清国、岩楯清太郎の生き様の小説なのだ。弟弟子の国周との角逐と情も、絡む。
 西洋美術輸入前の日本の“美”の精神の華が確とある。人人と共に、だが、必ずしも阿らず、先へと必死に進もうと励むのだ……。
 だけれども、石版印刷と機械印刷の技術、より早くあれこれを伝える新聞の登場、描く対象の崩壊で、滅びへと向かうしかない。ここで梶よう子氏が凄いのは「それでも描く」魂を活写していることだ。済みません、鉛筆で手書きの俺だけでなく、ほとんどの作家に砂漠のバナナや、林檎や、蜜柑となるだろう。
 タイトルの『ヨイ豊』も、後半になり、なぜ付けたか解り――思わず、落涙。
 今年は夏の直木賞の東山彰良さんの『流』といい、この小説といい、エンターテインメントの炎に出会う。何の前触れの炎か……。







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