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評者◆第14回 奈良県・大和高田市立図書館・秋丸素子館長
〝全力投球の人間関係〟が地域と図書館を活性化させる――雑誌スポンサー制度が成功した理由
No.3235 ・ 2015年12月19日




■奈良県の大和高田市立図書館は、近鉄大阪線の大和高田駅、JR和歌山線の高田駅から徒歩10分足らずの距離で、市役所や税務署などの官公庁が集積する地域の一角にある。蔵書は約13万冊、延べ床面積は1268平方メートルの市立図書館だ。2015年4月より指定管理者として図書館流通センターが運営をはじめ、その際に導入した「雑誌スポンサー制度」が好評だという。年々減少する図書購入費に頭を悩ませる図書館員は多く、雑誌の購入を断念する図書館も出てきている中、同館では開始当初の自治体との目標である20誌はすでに超え、11月現在は32誌(31社)を地元の企業が買い支えている。30年以上の図書館勤務経験を持つ、同館の秋丸素子館長に図書館運営の極意などを聞いた。


■地元民との連携で地域活性化を推進
 ――目標以上に雑誌のスポンサー企業を集めることができたのはどうしてか。
 「まず、私は雑誌のスポンサー制度導入ありきで大和高田市立図書館の館長として活動を行っているわけではない。図書館が地域の人と連携して、地元を活性化させる手助けをしたいというのが、図書館運営の柱にある。私は大和高田市立図書館に赴任することが決まった時から、新聞記事などで地場の産業や歴史などを調べて、関連施設を回って歩いた。前任は同じ奈良県内の図書館で副館長だったが、その名刺を渡し、4月から大和高田市立図書館に赴任することを伝えた。着任してからも地元の人たちを訪ね歩く日が続いた。その結果、青年会議所に所属する社長らが集まる『大和高田を元気にする創造協議会』とまちづくりのボランティア団体『夢咲塾』という2団体と連携を取ることができた。協議会とは地域ブランドである『さくらコットン』の普及・宣伝に協力している。夢咲塾とは鉄道展・近代建築展などを共催した。すべてはこうした人たちが協力してくれた結果である。会う人たちに『図書館を通じて大和高田を活性化したい』と言うと、皆その言葉に反応してくれた。奈良で2番目に発展したという大和高田という都市に住む人々は、すさまじい地元愛を胸に秘めていると分かった」
 ――雑誌スポンサー制度は地域活性化のための手段の一つであって目的ではないと。
 「我々が運営する以前は、閲覧できる雑誌数は50~60誌程度と少なかった。雑誌の購入予算が限られていたこともあり、雑誌を充実させたいと当初から考えていた。制度導入後は、スポンサー制度で購入した雑誌を含めると、90誌を利用者に提供することができている。また、スポンサー制度の雑誌はすべて地元書店から仕入れている。地元書店からの購入で、さらなる地元活性化につなげることができる」
 ――他の図書館でこの制度を始めたが、企業数が伸びないという話を聞く。
 「地域の事情はさまざまだろうが、どれだけ自分の足で歩いて、人間関係を築いたのだろうか。夜の会議にも顔を出しただろうか。私は普段の付き合いを真摯に重ねていれば道は開けると思いながら、ひたすら人と会い、話を聞き続けた。そうすると、『図書館で雑誌スポンサー制度というのが始まる』と話せば、市内の寿司店『まるみ』の店主に2誌の雑誌のスポンサーになっていただいた上に、店主は他の人にまで宣伝してくれた。そうやって、1誌1誌が増えていった。頼んだ人も頼まれた人も、互いに利益関係のある企業はない。大和高田を活性化したいという気持ちでスポンサーになっていただいたと思っている。さらに今も検討中の企業が7社ある。今年度中には40誌になるのではないだろうか」
 ――この図書館で他にも取り組もうとしていることは。
 「今年度から初めて、大人向けの古文書講座、教養講座
のほか、子ども向けのリバーウォッチングなどのイベントを実施するようになった。イベント関連は充実してきたが、当館の弱点は郷土資料が少ないところ。市民に郷土資料の寄贈を呼び掛けて、館内のスペースを広げようと計画している。他にも、実現したいことが2点ある。1つは子ども向けの郷土史の本が少ないので、先ほどの『夢咲塾』の人と協力して、子ども向けの郷土資料を作成したいということ。片塩商店街や天神橋筋商店街などが最も活気のあった時代の写真などを市民から借りて資料を作り、市内の小学校に配りたいと考えている。そのために、いま図書館振興財団に助成金を申請している。それがいずれは子どもたちの調べる学習へとつながっていく。もう1つはそれら資料のアーカイブスだ。今もなお、多くの地域資料が市民の家で眠っている。それらを今のうちに収集して、次世代の子どもたちに継承していきたい。地域資料の収集と次世代への継承、それが図書館の使命なのだから」

■出会い重ねた30年 極意は〝全力接客〟
 ――この図書館に赴任する前の秋丸館長の経歴は。
 「奈良県内の図書館に直営時代から勤めていた。元々、中学生の頃から図書館で働きたいと思い学生時代に司書資格も取得していたが、結婚や出産でその機会を逸していた。だが、子どもが幼稚園に入った頃に、アルバイトとして図書館で働き始めた。縁があって、その後、市の臨時職員に引き上げてもらい、それから30年、その図書館で仕事をしてきた。その後は図書館流通センター(TRC)への指定管理者制度の導入に伴い、自治体職員を辞めてTRCに入社し、現在に至っている」
 ――直営と民間との違いは。
 「両方の立場を経験して、民間が優れていると思うのは、ノルマがあって競争原理が働くこと。自治体に認めてもらうためにも、切磋琢磨して利
用者サービスを向上させようと考える。直営時代に経験して驚いたのは、利用者とケンカをする公務員がいたことだ。民間の利用者サービスでは考えられないことだろう。指定管理者制度導入後も私は図書館員を続けたかったので、TRCに入社した。公務員でも、民間でも、図書館員として全力投球で利用者に向き合うことを心がけていた。それこそ、前任の図書館では、その地域で私を知らない人はいないくらい、積極的に周りに接していた。それに引き換え、今年から赴任した大和高田市では、初めはほとんど知り合いもいなかった。だが何もない中で人間関係を構築するのも面白いと感じた。ゼロからのスタートだからこそ、成功したときの喜びが、何倍も大きく感じられる。だから、今も常に全力投球で市民と接し、数々の出会いを積み重ねて関係を作っている。図書館はある意味究極のサービス業ともいえるかもしれない。無料原則の中で、利用者にどう喜んでもらうか、クレームをいただいた方に納得して帰ってもらえるか、寂しい年配者にどれだけ寄り添えるか――。これらすべてをひっくるめて図書館。図書館が好きだという気持ちがなければ、30年以上も続かなかった」
 ――一部の文芸出版社が一部の作品に限って、図書館に1年の貸出猶予をお願いしたいという話が挙がっている。どう対応するか。
 「このニュースには、まず驚いた。図書館と出版社とは持ちつ持たれつの関係だと思っていたからだ。図書館で目にした本を自分のものにしたいと思う方は購入するであろうし、好きになった作家さんの本ならば、もっと買い揃えていきたいと思うであろう。私自身、自分の生き方に影響を与えた本や、糧にしたいような本に出合ったときは購入している。本に対して、いろんな選択肢を提供しているのが図書館なのだから、出版社の邪魔をしているとは思わない。未知なる本との出合いは、更なる読書欲へとつながっていくのだから、共存していくことが未来を明るくしていくと思うし、そう望みたい」







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