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評者◆秋竜山
火のまわりドンドコドコドコ、の巻
No.3234 ・ 2015年12月12日




■「火の用心」という標語を、日本人であったら知らなかったとしたらモグリだろう。そして、「火のまわり」。時代劇の夜の場面によく出てくる。チャキチャキと拍子木を叩きながら暗い町内をまわり歩く。私の知っている火のまわりは村の一軒ずつ当番制になっていて、一つの拍子木を順番に打ちならして、まわって歩いた。それが昭和三十年代の前半頃まで続けられた。後半になると、急に消えてしまった。時代遅れになってしまったのか、古くさく感じるようになってしまったのか。時代の流れというものだったんだろう。昭和三十年代に入ると、私も村の青年団に入団する年齢になり、村に残る長男坊として団員となった。そして、青年団の役わりとして、冬の「火のまわり」をさせられた。村の火のまわりは拍子木を打ちならしながら夜道を歩くのに対し、青年団の火のまわりというのは、拍子木ではなく空き石油カンにヒモをつけて、それを片手でぶらさげ、もう片方の手で棒切れで強く叩くのである。どのような音が出るかというと、ものすごい騒音がひびきわたる。拍子木のチャキチャキという音は、歴史的ななつかしくもある風情のある音色であるが、ドーコの空きカンを叩く音は、ただやかましい音でしかなかった。立ったまま静止した状態で叩くとドコドコドコという音であり、歩きながら叩くと、ドンドコ、ドンドコというリズムに変わった。夜の村中が安らかに眠りにつくころ突然というほどに静じゃくをやぶって、ドンドコという音で眠りがやぶられる。それが、このドンドコという音の持つ意味となるのである。村人の眼をさまさせて、かまどの火の始末はいいのか、もう一度確認せよという、いわゆる「火の用心、マッチ一本火事のもと」のチャキチャキ音と同じ意味あるものであった。そのために村中がドンドコとチャキチャキの二重の騒音で寝ていられない夜をすごさねばならなかったのである。
 輪島裕介『踊る昭和歌謡――リズムからみる大衆音楽』(NHK出版新書、本体八二〇円)では、昭和三〇年代に日本中で大流行したマンボにドドンパなどという、実にふざけたとしか思えないといえそうでいえないようなリズム音楽がうまれた。本書ではその模様がくわしく語られている。あのマンボとかドドンパの曲を耳にすると、なぜか自然に体がその曲の動きにさせられる。そして、妙な踊るリズムに体を動かさずにはいられなくなってくるのである。今から考えてみると実に、ふざけた面白おかしい良き時代であったとしか思えない。「ウーマンボ」。とか、ドドンパ、ドドンパとか。どのような意味を持つのかわからないが、その曲のリズムに若者たちは飛びついて、男も女もこれが今流行の若者文化だと思わせられた。ちょうどそれが、火のまわりの「チャキ、チャキ」と「ドンドコ、ドンドコ」に似ているような似ていないような変てこな共通点が見出された。私だけかもしれないが、ウーマンボ。とか、ドドンパとかの動きにドンドコをかさねながら火のまわりをやった。夜の暗がりで、この姿を見たら、何ごとかとあやしまれたであろう。その点、深夜であるから、この動きに気づかない。それにしても、マンボとドドンパのリズムにのせるようにしてドンドコとは、どーかしていたのかもしれない。







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