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評者◆秋竜山
スケッチの楽しさ、の巻
No.3232 ・ 2015年11月28日




■昔は、スケッチブックの大きいのを持ちたくて無理して大型のスケッチブックをかかえていたが、大き過ぎてひろげてスケッチできず、ただ持ち歩くだけであった。今はポケットにはいるくらいの超小型である。戸外でスケッチをしていると、そこを通りかかった人が、スッと寄ってきて、無言でひろげたスケッチブックをのぞき込む。そして、何を感じたか思ったかしらないが、音もなく立ち去る人もいれば、話しかけてくる人もいる。さまざまであり、一つの小さなドラマのようでもあり、恥ずかしいけど、うれしくもある。「ホー!! 画を描いているんですか?」と、声をかける人。スケッチブックをひろげているんだから、画を描いているのは当たり前だろうに、あえてそのように声をかける。そして、お世辞に「うまいですね」と、いう。そのあと必ず口にするのは、「油絵を描いていますか」と、聞く。十人中、十人が同じように聞く。なぜ、油絵か。絵といえば油絵ということになるのだろう。私も最初の頃はバカ正直に「いや、漫画を描いているんです」なんて、いった。すると「こいつ、俺をバカにしている」なんて、口にはしないが心の中でそう思っているような顔をして立ち去っていくのであった。そういう過去の経験をもとに今ではスケッチをしていて、油絵と聞かれれば「ハイ」なんて答える。「やっぱしな」というような満足顔をしてくれる。それが何よりスケッチをしていて味わうたのしさである。
 吉良智子『女性画家たちの戦争』(平凡社新書、本体八四〇円)では、女性画家のことが書かれている。今のではなく昔の女性画家である。
 〈「風景画」はそれほど多くは描かれていない。なぜなら、描くべき風景を求めて、女性一人で遠出をすることが大変難しかったからである。また近場であっても女性が一人で街なかにおいてスケッチをすることは、周囲の好奇の目にさらされることが多かった。洋画家亀高文子は、画家であった父の命令で、戸外でのスケッチを行なっていると、大勢の人間が集まってきて、大変恥ずかしかったこと、亀高が往来の激しい場所でのスケッチをいやがると、父はさらに人通りの多い浅草でスケッチをするように命じたことを娘のみよ子に語っている(工藤美代子「野の人會津八一」新潮社、二〇〇〇年)。(略)女子美の普通科西洋科本科の第一期生で、卒業後は同校の西洋画科教師として後進の指導にあたった女性洋画家のパイオニア足助恒がしたためた次の文章には、女性が洋画を学ぶことの困難がはっきりと表われている。――当時は今と違ひ女の子が油絵の勉強を仕様と云ふと両親は勿論、新類縁者総出で反対し、女がペンキ屋になるのか、ときつく叱責されたものでした。(略)一番困ったのは風景写生に出かけると、子供といはず大人までが物珍しさうにぞろぞろ付いてきて囃し立てることでした。(略)〉(本書より)
 たまりにたまったスケッチ画、いったい、どーしたらいいんだろう。







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