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評者◆秋竜山
傘がない、の巻
No.3231 ・ 2015年11月21日




■朝起きて、まず最初に忘れるのは目覚めの寸前までみていた夢の内容である。「アレ?今みていたのに……」。ひと晩中の大長編の夢であっても、それをすべて忘れさってしまうのだから、もったいない。おぼえている夢はいつも同じ内容だ。自分の履物が見あたらない。靴であったのか、下駄であったのか、長グツであったのか。そして、どこにぬいだのか、それもわからない。あっちこっちさがしまわるのである。夢の中にあらわれている人が、「本当に、はいてきたんですか?」なんていう。いくらなんでも裸足でくるわけがないだろう。帰るに帰れない。そして、眼がさめる。そのはき物はなかったままで、夢の終わりとなってしまう。なぜ、はき物なのかわからない。ところが、傘がないということで、そこらじゅうさがしまわるということは一度もないのである。どうして、傘がないといってさがしまわる夢をみないのかわからない。
 島宗理『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか――素朴な疑問から考える「行動の原因」』(光文社新書、本体七六〇円)では、〈第2章 記憶を視考する――人は、なぜ傘を置き忘れるのか〉。傘の忘れは、まるで傘は忘れるために発明されたものではないかと考えてしまうほどである。そして、そんなに考えるほどのことではないというのか、すぐ忘れてしまうのだ。忘れたからといって、損したようには思えないのも不思議だ。
 〈「ひと雨五百本」といわれるほど、駅や電車では傘の忘れ物が多いらしい。その数は上着などの衣類、財布、カードや証明賞などを断トツに上回っているという。〉(本書より)
 よく誰かの忘れられた傘が置かれてある。それを見て特別の感情を持つわけでもない。なんとも感じない。ひろって交番にとどけるということもない。もし、忘れられてある傘を持って、交番へ行ったらどうなるのだろうか。「傘が忘れられていました」。警察はなんというのかしら。「キミは警察を馬鹿にしているのか」なんて、叱られたりしたらどーしましょう。「あっ、そんなところへ置いておかないで、どこかへ持っていってくれ」なんて、いわれたとしたも、やっぱり傘ってそういうものなのかと思うかもしれない。
 〈雨が降っていないときの傘ほどかさばるものもない。折りたたみ式ならともかく、ジャンプ式で、他に手荷物がある日には身動きが取りにくくなる。たたんだ傘で自分や他の人の足下が濡れたりもする。濡れた傘を持ち歩く行動はこうした内在的随伴性によって自動的に弱化されている可能性がある。図11からわかるように、傘を持ち歩く行動は、濡れることを避けることで強化される以外は、ほぼ強化されていない。強化されない行動は自発されないから、雨が降っていないときに傘を持ち歩かなくなるのは当然である。〉(本書より)
 雨の日以外は傘などというものはなくてもよいということだ。雨あっての傘である。傘あっての雨ではない。傘を忘れるということは忘れてもなんでもないという気持ちがあるからではないだろうか。それがビニール傘である。どこかでビニール傘が落ちているからといって、ひろって家に持って帰るということもない。それはちょうど落っこちている一円玉と同じだ。どっちにも共通した物がなしいものがあるのではなかろうか。もし、これが一万円もする傘だったらどうだろうか。







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