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評者◆内堀弘
古本の生活のリアル――『BOOK5』(トマソン社)最新号のディープな視線
No.3231 ・ 2015年11月21日




■某月某日。『BOOK5』(トマソン社)の最新号が出た。人気のリトルマガジンで、古本屋関連の特集が多い。それも「ちょっと素敵な古本屋」といった類ではない。たとえば最新号は「特集・はたらくくるま」。これが古本屋のことなのだ。
 「本というものを考えていると、必ず行き着くのは本の移動ではないでしょうか」(あとがき)という独特の結論から、スバル・サンバーとトヨタ・ハイエースにスポットをあてる。古書店主が「サンバー愛」や「ハイエースとの出会い」をしみじみと語り、自動車整備工場の社長まで登場する。本来手段であるべきものを神話化した不思議な特集なのだ。
 読んでいて、私はふと駆け出しの頃を思い出した。その頃、百貨店の大きな古本まつりに参加していた。搬入するのは二百箱で、それだけのダンボール箱を集めるのが大変だった。
 苦労して調達した箱を毎年使った。しだいにヨレヨレになってくる。ある年、神田のベテラン古書店がゲスト参加して、手の切れるような新しいダンボール箱で搬入した。この人はよく売ったから、撤収のときには箱がずいぶん余った。その美しいダンボールの空箱が、私には『みだれ髪』の初版と同じくらいに素晴らしいものに見えて、「わけてください」と頭を下げた。そうなるのだ。
 あの倒錯した感覚は小商いの生活感だろうか。『BOOK5』なら、「特集理想のダンボール箱・詰め方五十例」を作るかもしれない(なるほど、まるで『暮しの手帖』だ)。今までも「特集・しばったりつつんだり」とか「特集・本と腰痛」など、この方面では他誌の追随を許さない。
 ところで、この版元のトマソン社が初の単行本を出した。『ときには積ん読の日々』(吉上恭太)。著者は翻訳家、五十歳から歌い始めたミュージシャンで、千駄木の古本屋「ほうろう」をホームにライブをしている。回想のなかに常盤新平、堀内誠一、小沢信男、山川直人、菅原克巳たちが通り過ぎる、静かなエッセイ集だ。トマソン社は古本屋で起きることに敏感だ。目を凝らし、耳を澄ます。この本も、その賜物のようだ。







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