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評者◆小嵐九八郎
生に溺れ、死が遠いと錯覚する時代に――「季刊 やま かわ うみ vol.11」(本体一六〇〇円・アーツアンドクラフツ)
No.3230 ・ 2015年11月14日




■ある雑誌の表紙を見たら特集として「現代日本人の『死生観』」の見出しがあり、冷やり。捲ると「戦前に生まれ、戦争を経験し、戦後に活躍」の黒澤明を含む五十人のもので、俺は1944年生まれ、死については何千回も考えてきたけれど解らないまま、覚悟も好い加減のまま、命根性だけは厭らしいまま、七十一歳になってしまい、近代文化史研究会編による死を経た先達者のそれをかなり真剣に読んだ。
 「時間は流れづめに流れておる。その中で生命というものは、この瞬間ぎりなんです。この瞬間ぎりに、よそ見なし、精一杯に……」(P31)とは、禅の実践者であった澤木興道。
 「死生観のふかまりもなく、ただ老いてゆくのは残酷である」(P93)は、歌人の前登志夫の言で、当方への当て付けみたい。
 「僕は『死ねば死にきり』という考え方がいいなと思っているのですが、残念ながらそれを実感していません」、「形而上学的なあるいは宗教的な悟りはできるでしょうけど、科学的なものと合わさった悟りはできないと思えるんです」(P91)とは、吉本隆明の弁で、この人らしくなく素直である。死というものが持つ不可避性、大いなる絶対性がこうさせるのだろうか。
 「呆けたという特色は、そんなものではない。棺桶に確実に片足をつっ込んだという実感です」(P69)とは小林秀雄の言い分で、「死はいいんですけど、老いは厄介ですね」(P89)の司馬遼太郎とかなり共通性があり、この感覚は俺も味わう日日だ。やるせない。
 高倉健さんは、死の前に沢木耕太郎さんに「なんだかカリブ海に潜りに行ったまんま上がってこないよ、というのが一番いいですね」(P128)と死の理想のイメージを語っている。
 自称歌人としては、やはり「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」(P67)と于武陵の詩を訳した井伏鱒二あたりの情緒的な割り切りに惹かれる。
 ある雑誌とは『やま かわ うみ vol.11』(アーツアンドクラフツ、本体1600円)で、出典も明らかにしている。生に溺れ、死が遠いと錯覚する時代、売り切れの予感がする。早目にリーチの方がいいかも。







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