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評者◆添田馨
「9・19」あるいは、地獄の季節を越えて――「もう秋か。――それにしても、何故、永遠の太陽を惜しむのか…」(ランボー「別れ」より)
No.3230 ・ 2015年11月14日




■『地獄の季節』の掉尾を飾る詩「別れ」が、本当に突然、脳裡に蘇ってきた。
 この夏、ひとつの明白な理由によって、この特別だった季節における「9・19」の日付は、人々に深く記憶されたに違いない。
 私たちは負けたのだろうか? いや、その前に、〝私たち〟とはいったい誰のことを指す? くっきり焼き付いていたその群像ですら、すでに記憶のなかで輪郭は霞みはじめてもいるのではないか。
 言葉が通じていかない。必死で訴えかけた言葉が。代わりに言葉の類似物が一方的にディスプレイされ、全国にTV中継されて、最後にやってきたのは数の暴力、その暴力がはびこらす無法、そしてその無法が支配する立法府内部の惨憺たる映像……これよりも悪い状況はないという意味で、この特別な夏は〝地獄の季節〟と呼ばれるに相応しい。
 いろいろな思いが頭をよぎる。オキュパイは、果たして路上だけでよかったのか。隣国で起きた学生革命のように、立法府そのものを占拠すべきだったのではないか。そして、オキュパイの現場で、情況の詩――強靭なる言葉――こそがコールされるべきではなかったのか……。
 人にはときとして内向する孤独な時間が必要だ。皆が一人一人に戻って自分に向きあうべき時間が。そして気づく。私たちが一緒になってまた同じ場所へと出掛けて行ける保証は何もないことを。だが間違いないのは、消せない記憶が共に保有されてしまったこと。すべての思想と行動が創生される、そこは唯ひとつの原点だ。〝私たち〟は確かに今も、そこにい続けている。
 道理の通じぬ相手には、実力行使で立ち向かうしか方途はないと知った。いま、一人一人にとってやるべきことは自ずと絞られるだろう。本当にはじめて、私たちは敵が誰なのかを知った。本当にはじめて、味方が誰なのかを知った。たとえ一瞬でも、敵がその醜悪な素顔を曝したのを僥倖となそう。「まだまだ前夜だ…」(ランボー)――まだまだ〝私たち〟は負けていない。







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