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評者◆中土居一輝(谷島屋 浜松本店)
これほど「読まないと伝わらない」コミックは初めてです
手巻き寿司課長と覆面男
山口ツトム
No.3229 ・ 2015年11月07日




■「噂のBL?本を買いましたん。ふゅーじょんぷろだくとから出てるから全部BLっていうわけでもないのは知っていましたが、この本は置き場に困りますねー。異質な執着とBLに寄せた描き方をしているけれど、青年コミックの場所でも反応実験をしてみたいところ。
手巻き寿司課長と覆面男/山口ツトム
 あっ!イクラがエロいです。」
 『手巻き寿司課長と覆面男』(山口ツトム/ふゅーじょんぷろだくと)を知ったきっかけは、とある書店員さんがフェイスブックに書き込んでいたこんなコメントでした。
 いままで文芸担当だったところに、コミック・ラノベも兼任することになっていたので、知り合いの書店員がすすめているコミックはなるべく読んでみることにしていました。
 期待に胸を膨らませて数ページを読んだところで、腹筋崩壊するんじゃないかというくらいに笑ってしまうという事態に。この自分の想像を遥かに越えて(あさっての方向に)いく様は、いま思い出してもおかしくなってしまいます。
 久しぶりにコミック担当になり、コミックはこんなに進んでいたのかという驚きを隠せません。作者の山口ツトムはこれがデビュー作です。『手巻き寿司課長と覆面男』は、八作の短編を収録してあります。第一話のあらすじはこう。頭がいくらの手巻き寿司である標津課長(北海道出身)が、頭が割り箸で出来ている部下の御手元(妻は普通の人間で、たまに洋食器と浮気する)との帰り道に謎の覆面男・糸魚川に襲われます。糸魚川の目的はただひとつ。標津課長の頭であるいくらの手巻き寿司を食べること(貞操を破ること)。ここまで読んでいて、なにを書いているかわからないと思いますが、このまんますぎてぼくにもよくわかりません。
 そして、第二話で明かされる、覆面男・糸魚川が標津課長に固執する驚愕の真実(これも斜め上を行く感じです)。よんどころない、実にくだらない理由はまさに同情の余地がありません。
 つづく第三話では、覆面男・糸魚川のストーカー行為に拍車がかかり、ついには標津課長の自宅へ行ってしまいます。いつもどおりに拒絶して突っぱねていく標津課長でしたが、覆面男・糸魚川のひたむきさに、「俺…わるいことしたかな 何か言いたいことあったのかもなぁ」となぜだかほだされてきてしまいます。このストーカー行為に同情してしまう優しさが、標津課長の魅力のひとつかもしれません。
 さらに第四話以降も、温泉卓球、食中毒、山での遭難、御手元を交えて、三人揃って自宅での晩酌などの試練が続きます。
 仕事では非常に頼りになる標津課長の懐の深さと、覆面男・糸魚川の病的なまでの一途さを見ていると、二人の関係がなぜだか愛しく感じてきてしまうから不思議です。このエロスとギャグと狂気とハートフルとの絶妙なバランスが見事というほかありません。これほど読まないと伝わらないコミックは初めてです。
 で、これを読んでいて初めて知ったのですが、最近のジャンルで異形頭(いぎょうとう―いけいあたま)というキャラクターのくくりがあるそうです。有名なのは、「NO MORE映画泥棒」などでしょうか。筒井康隆『異形の白昼』(集英社文庫)のカバーなんかもそういったくくりに入るのでしょうか。
 「漫画とは大人が眉をひそめるようなものでないといけないんです」とは、かの有名な手塚治虫が言ったとされる言葉です。これからも、大人が眉をひそめるようなおもしろいコミックスを探して、多くの人たちに手にとっていただけるように仕事をしていきたいと思いました。







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