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評者◆秋竜山
時代や歴史を越えて生きる笑い、の巻
No.3229 ・ 2015年11月07日
■市川伸一『考えることの科学――推論の認知心理学への招待』(中公新書、本体六六〇円)を読みながら、あるページで、笑いというものは、時代や歴史を越えて生き続けるものだと、笑いの発見のようなものを味わった。
〈(例5 自分が回ると周囲が回って見える。天空は回って見える。∴地球は回っているのではないか。)地動説は歴史上もっとも大胆な仮説的推論の一つである。「天空ではなく、地球のほうが回っている」という仮説を思いつくのは容易ではなかっただろう。ひとたび思いついた仮説がどれだけ他の現象をも説明できるか、またその仮説が正しければ生じるはずの結果が実験によって確認できるか、ということをくり返しながら科学は進歩してきた。(1)〉(本書より) 本読みのたのしさは、こーいうところにある。と、いうのは小さく(1)の活字の部分で(?)の、たのしさ。これは(注)を意味する。だから、すぐ(注)のページに飛ぶ。あんがいと、やりすごしてしまうことが多い。それは読み手側の関心度と、勝手かもしれない。著者の気持もしらないで。実にめんどうな作業であると思う。著者の性格上、すっ飛ばしてしまうことは自分をゆるせないからかもしれない。それにしても、どんな本もそう思えるのだが、(注)のページの活字がどうして小さいのかわからない。そうしなければならないような決まりのようなものでもあるのか。まるで、えんりょしているような雰囲気さえある。かまわないから、もっと堂々と(注)を大きな活字にすべきだろう。読みやすく。さて、本書における(1)である(注)だが。 〈プトレマイオスをはじめ古代ギリシャの天文学者も、すべての星を含んだ天球が一日一回地球のまわりを回ると考えるよりも、地球が一日一回転していると考えたほうが簡単であることはわかっていたらしい。ところが、もしそうだとすると、地球の速さはものすごいものとなり、東から西に向かう猛烈な風が吹くことになってしまう。空に飛び立ったトリも、取り残されて帰ってこれないことになる。こうした推論の結果、プトレマイオスは地動説を否定したのである(板倉聖宣「科学はどのようにしてつくられてきたか」、仮説社、一九九三)。〉(本書より) これが有名な話であったかどうかはしらないが、これが時代というものだろう。時代はいつも同じだ。プトレマイオスは推論の結果、地動説を否定したのであったという。その時代の人だと思う。〈地球の速さはものすごいものとなり、東から西に向かう猛烈な風が吹くことになってしまう〉。笑いごとではない笑いだ。もっと笑えるのは、〈空に飛び立ったトリも、取り残されて帰ってこれないことになる〉と、いうことだ。マンガのような推論であるが、正しいだろう。どう推論しても地動説を否定したくもなってくるだろう。私だって、もしその場に居あわせたら、「プトレマイオスの推論は正しい。私もそー思えます。本当に空に取り残されたトリはどーなってしまうのでしょうか」なんて、プトレマイオスを応援したかもしれない。私は職業柄というか、マンガ家として、笑えるほうを応援すべきだ!! という態度をとるだろう。マンガ家にとって笑いというものが命より大事であるからだ。プトレマイオスも、きっと笑いを大切にする科学者であっただろう。プトレマイオスにすれば、「そんな冗談はやめてくれ!!」と怒るだろうけど、ね。 |
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