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評者◆小嵐九八郎
『カラマーゾフの兄弟』にあと数歩という迫力
流(りゅう)
東山彰良
No.3228 ・ 2015年10月31日




■“アラブの春”はどこへやら、「イスラム国」を巡って人人は信仰と生活をかけて、闘い、逃げ、と必死。アフリカでは依然として人人は飢餓の日々との対峙。ブラジル・中国・インドの人人は儲けを含めてパワーがある。日本の人人は? と自らに問うと、老人性鬱か、老人的僻みか回顧趣味か、自分を含めてあまりに好い加減に安逸を貪り、戦争法案への眦を決しての潰しへの気迫が決定的に不足している。若者は、男女とも助兵衛を面倒臭がり、結婚すら“費用対効果”で考え、直の人と人の交わりよりパソコンとスマホに熱中する。たぶん“先進国”の人人は、とりわけ日本は真っ先に滅びるだろう。
 と、こんな時代に小説を読んで何になろうかと、それでも、日本文学史の中で純文学は社会の根っこに対峙してきたそれなりの凄みがあり、あれこれの純文誌や新刊本を読むのだが、瑣末の誇大か、現実とは掛け離れた空想か、まだるっこしい譬喩話ばかり。
 ところが、戦争法案に若者が自らの躯を使って渋谷とか国会前に登場してきて、大老人も俄に元気が出てきた。そういや、俺は娯楽作家、新刊本の帯に「二十年に一度の傑作! とんでもない商売敵を選んでしまった」と北方謙三氏の言葉があり、「これぞエンタメ作品! 興奮しました。十五年間で一番幸せな選考会でした」の林真理子氏の言葉も記されていて、この直木賞受賞作を買い、読んだ。
 ご存知と思うが『流(りゅう)』(東山彰良著、講談社、本体1600円)である。
 帯にある北方氏、林氏の言葉に嘘はない。社交辞令も、よいしょもない。正直過ぎるほどだ。「祖父を殺した犯人は誰か」のミステリーで読み手を引っ張るのだが、それは形式とかジャンルを拝借しただけ、台湾の中の本省人vs.外省人、台湾史・中国史・日本史、イデオロギー、血族、呪術師“お狐様”、アナーキーにしてヤンキーな青春と、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』にあと数歩という迫力である。台湾生まれ育ちなのに、日本の自称歌人も参る詩的な文も出てきて、完全に降参である。ワカランチャンから一言、的外れの忠告をすれば、これからは設計図を踏み外して書いた方が良いかも……。







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